漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

マイナンバーカードと自治体の「ニーズ」の見誤り

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 先日、区役所に必要な書類を取りに行ったら延々45分も待たされた。藁半紙の紙切れ一枚を貰うのに45分。番号が私より遅い人が先に呼ばれ、私は延々待たされた。やっと呼ばれた時に窓口の女性職員は「お待たせして大変申し訳ございませんでした」と深々と頭を下げた。私が「コンビニ対応はしてないんですか」と聞いたら「してません」と。してないことは知ってたから窓口に来たので、続いて「コンビニ(マイナンバーカード)対応しない理由は何かあるんですか?」と聞いたところ、「区のシステムがそもそもマイナンバーカードに対応していない。対応するためにはシステムを改修しなければならない。改修には大きなコストがかかるので区民のニーズとのバランスを見ながら判断している」とのことだった。

 以前、現役公務員の人のブログで似たような指摘を読んだことがあった。 

 私は国がマイナンバー制度を推進すれば、もういちいち区役所に足を運ばなくていい世の中が直ぐに到来すると思っていた。だがどんなにマイナンバー制度が優れていたとしても役所がシステムを改修して対応しなければ、マイナンバーカードは全然使い物にならない。そして、そのシステムの改修には大きなコストがかかるということも解った。

 だが、「区民のニーズ」については見誤っている。「今のところ区民のニーズがないから対応しない」のではなく、「対応したらニーズが高まる」のである。マイナンバーカードはそういうものである。「今、誰がカード持ってるんですか?そんなに使う人いないでしょう」と言いたいのかもしれないが、今、多くの国民がカードを持っていない、使っていないのは、使い途がない、若しくは分からないからであって、「こんなことに使えるのか!」と使い途が分かってくれば、持つ人も増えてくるし、使うようにもなる。

 例えば、国や役所は「マイナンバーカードで住民票の写しが取得できます!」と言っているが、住民票記載事項証明書の取得に対応していない自治体は多い。こんな中途半端なことでは誰もマイナンバーカードを持とうとは思わないだろう。住民票の写しを必要とする場面は日常でそんなに多くない。今の時代は、個人情報の取り扱いに敏感になっている時代なので、会社でも余計な情報がたくさん載っている住民票よりも、住民票記載事項証明書の提出を求めるところは増えている。「住民票記載事項証明書はニーズが少ないから対応しません」というのはニーズの見誤りである。それに、どんなにニーズが少なくても対応しなければいけない。マイナンバーカードにはそういうインフラ的性格が求められているからである。ロングテールにも対応していかなければならない。

 国民の大半はまだ、マイナンバーカードでどんな便利なことができるか知らないのである。「こんなことまでマイナンバーカードでできるんだ!」という感動体験がカード利用者を増やす。カード一枚でスマートに手続きが済む社会、がマイナンバーカードが目指すものであったはずだ。それを、これには対応しているけどこれには対応していませんなどという市松模様を作ってしまったのでは、却って「カードがある前のほうが分かりやすかったね」ということになりかねない。

 「需要がないから」、「ニーズがないから」ということを理由にすべきではない。区民は「マイナンバーカードでどんなことができるか知らない」「マイナンバーカードを持つメリットがない」と言い、区役所は「区民からの要望がない」と言っていたのでは、永遠に前に進まない。

 マイナンバーカードは、それ一枚あれば基本的なことは何でもできる、ということを根本にすべきであって、「持っていれば便利なこともある」という性格のものにすべきではない。この「オールインワン」という性格がなかったら、マイナンバーカードである必要はない。ただ、「国民にとって行政手続きにも使える便利なカード」ということなら、マイナンバーカードではなく、電子証明書を内蔵したカードで十分である。

 自治体はもっと本腰を入れてマイナンバーカード対応に当たってほしい。そうすれば、私もあんなに延々と待たされずに済むのだし、職員だって窓口対応に大わらわになったり、私に深々と頭を下げたりしなくて済むようになるのだから。