漸近龍吟録

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ビットコイン批判 〜ビットコイン生誕9周年〜

 

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 9年前の今日、この世に誕生した。
 
 昨年2017年は、「ビットコイン元年」あるいは「仮想通貨元年」と言ってもいいぐらい、ビットコイン知名度が爆発的に上がった一年だった。そして、ビットコインの“よくない”面がたくさん見えた一年でもあった。
 
 今、ビットコインのいったい何が問題なのか。
 
 そこには、二つの大きな問題がある。
 
 「中国の問題」と「日韓の問題」である。
 

中国の問題=マイナーの問題

 ここで「中国の問題」と呼ぶのは、いわゆる「マイナー(採掘者)の問題」である。マイナーは中国にだけいるわけではないが、中国が主流を占めている。2015年、2016年頃は中国の年であった。取引量の上でも、採掘量の上でも、中国がビットコインの主たる場であった。この二年間で明らかになったことは、巨大なハッシュパワーを持つマイナーが強大な権力を持つようになる、ということだった。
 
 採掘のスピードはビットコインの価値に影響するが、そのスピードを速めるも遅めるもマイナー次第。そして、今まさに問題になっているビットコインネットワークの混雑、送金処理の遅延も、マイナーの匙加減一つ。さらにもっと大きな問題は、マイナーがビットコインの仕組み、すなわち「政治」の問題にまで口出しできるようになってきたことだった。ハードフォークとか文字通りビットコインの根幹に関わるようなことに対して日に日に大きな意見を持つようになっていった。
 
 そしてついに、2017年8月、マイナー主導のハードフォークが決行された。
 
 これは、ハードフォークの是非以前に、一握りの声の大きな人間によって決行されたことが問題である。
 

日韓の問題=大量の投資家の問題

 2016年までとは変わって、2017年にビットコイン取引量が最大になったのは日本と韓国だった。
 
 日本と韓国でビットコインを「始める」人が爆発的に増えた。そして、ビットコインの価値(時価総額)は、2017年の一年間で爆発的に高騰した。高騰した理由は、大量の日本人と韓国人がビットコインを買ったこと。それも投資的な目的で買う人が多かったことが主な原因だ。いわゆる「ミセス・ワタナベ効果」である。
 
 それではなぜ、2017年に突如、大量の日本人がビットコインを知る(買い始める)ことになったのだろうか。
 
 私は、それは一部のブロガーの存在が大きいと思っている。ある有名ブロガーが2017年の初頭にビットコインを「始めた」。そして「儲かる」「儲かる」とブログに書き綴った。これを見て煽られた人たちがビットコインに興味を持ち始めた。
 
 もちろん、一人のブロガーのせいとは言わないが、何人かの影響力の大きいブロガーが「ビットコインで儲かった」みたいなことを書けば、その影響は一気に日本中に拡がる。
 
 日本はビットコインの取引所なども充実しており、ビットコインを買いやすい環境が調っている。人口も多いし、こんなにたくさんの人が買えば(ほぼ「売り」ではない「買い」の一辺倒)、高騰するのは当たり前である。
 
 世界のビットコイナーたちは、何故この一年間でこんなに高騰したのか、その理由を、技術的な革新、前進があったからだとか、法的な整備がととのったからだとか、いろいろ考えているけれども、私は案外、日本の一部のブロガーが書き立てたことに起因しているのではないか、という気がしている。
 
 今や世界屈指のビットコイン取引所である、日本の渋谷にある「Coincheck」は、他の取引所と比べても、元々、ビットコインを「投機、投資的な物」としてではなく「通貨」として流行らせよう、という志向を強く持っていた。それが今では、投資的な目的の人たちが世界一集まる場所、になってしまっているのはなんとも皮肉なことである。
 

一握りの人に左右されるビットコイン

 この「中国の問題」と「日韓の問題」は似ている。それは、ごく一握りの人が大きな影響力を持っている、という点である。すなわち、有名マイナーと有名ブロガーである。
 
 この二つの悪影響がはっきり表れたのが2017年という年だった。
 
 マイナー主導のハードフォークによって価値そのものが毀損されても、ブロガーの煽りによってボラティリティが大きくなりすぎても、どちらもビットコインにとっては良くないことである。
 

「クジラ」の問題

  さらに言えば、いわゆる「クジラ」の問題もある。供給されているビットコインの約4割ほどを、たった1000人くらいの人たちが所有しているかもしれないといわれる問題だ。この1000人はかなり初期からビットコインコミュニティにいる人たちだと思われ、お互いに顔見知りである可能性が高い。つまり、この「クジラ」たちが結託すれば、ある程度思い通りにビットコインを操作できてしまう。
 

ナカモトサトシの問題

 さらに言えば、「ナカモトサトシ」の問題もある。
 
 9年前の今日、ビットコインブロックチェーンの最初のブロックがこの世に誕生した。この“0番目”のブロックのことを「創世塊」と言う。
 
 ビットコインブロックチェーンのブロックは、すべて一つ前のブロックによって正しさが証明されている。だから信用できる。10000番目のブロックは9999番目のブロックによって、9999番目のブロックは9998番目のブロックによって正しさが証明されている。しかしこれを辿って行くと、「じゃあ、一番最初のブロックは何によって正しさが証明されているの?」という問題に突き当たる。
 
 キリスト教の世界観では、神がこの世界を造りました、と説明する。すると子供は「じゃあ、神は誰が造ったの?」と訊く。
 
 ビッグバン宇宙論でも「ビッグバンによってこの宇宙は始まりました」と先生が説明すると「じゃあ、ビッグバンは何によって起こったの?ビッグバンの前には何があったの?」と訊かれる。そしてその問いに先生は答えられない。
 
 最初のブロックだけに関してはナカモトサトシを信じるしかない。それはキリスト教徒が神を信じるしかないのと似ている。
 
 もしナカモトサトシが生きていたら、そして一人の人物であったなら、大量のビットコイン保有していると考えられる。ナカモトサトシは悪用しようと思えば、ビットコインを崩壊、終焉に追い込むことができるかもしれない。
 

 今日を生きるためのビットコイン

 しかし私はナカモトサトシについてはそれほど心配していない。
 
 それよりも、ビットコインの中核から遠いところにいるマイナーや、もっとはるか遠いところにいる一部のブロガーなどが、ビットコインに大きな影響力を行使できてしまう事態の方がずっと問題であると考えている。
 
 ベネズエラジンバブエなど、自国政府の通貨がまともに使えなくなってしまっている国々では、人々は代替通貨としての機能をビットコインに切実に求めている。
 
 それなのに、日本の一部の富裕ブロガーなどが「儲かった儲かった」と煽り立てることで、ボラティリティが増大し、ビットコインが通貨として使いづらくなり、そうした貧しい地域の人々を苦しめていることになっているかと思うと、腹が立って仕方がない。
 

ビットコインのこれから 

 2018年以降、この先、ビットコインがどうなっていくのかは分からない。
 
 今あるネットワークの混雑のような問題は、Lightning NetworkやDrivechain、あるいは他の技術が登場して解決するかもしれない。
 
 しかし「一部の影響力の大きすぎる人たちに振り回される問題」はずっと深刻である。これは2017年だけの問題ではない。この問題を解決しない限り、ハードフォークの問題やボラティリティの問題はこれからもずっと続く。
 
 ビットコインにとって2017年という一年は、中国の大手マイナーや日本の有名ブロガーなど、新しもの好きの強欲マンたちによって振り回された一年だった。
 
 こうした一部の人の影響力が大きすぎる状態は、“Decentralized”という理念にも反する。
 
 ビットコインに携わる人たち、特に中核に近いところにいる人たちは、こうした問題の解決を考える必要がある。新しもの好きの強欲マンたちの手から“ビットコイン”を取り戻さなければならない。
 
 ビットコイン、9歳の誕生日、おめでとう。
 
 
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