漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

「そんなんだからモテないんだよ」

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 私はこんな残酷な言葉を知らない。
 
 モテたいのにモテずに苦しんでいる男性がいる。長年のあまりの苦しみに耐えかねて、突発的によからぬ行動、不適切な行動に出る。
 
 と、待ってましたとばかりに周囲の人間たちはこぞって「そんなことするからモテないんだよ」と言う。
 
 こんなにひどい言葉があるか。
 
 そんなことをしないでも、ずっとモテなかったのではないか。「そんなことするから」というのは後付けの理由である。「こんなことをするような人だからやっぱりモテないはずだね」と結果論的に言って、後から理由をくっつけている。
 
 一人の人間をずっと苦しい状況に置いておいて、そして皆でよってたかって益々苦しい状況に追い込み、窮地に追い込まれたその人が窮鼠猫を噛むように暴発したら、「それ見たことか。あの人間はああいう不適切行動をとる人物なのです。あんな人間がモテるわけがありませんよね」と言う。
 
 このように、皆でよってたかって窮地に追い込んで、当人の暴発を待ってから「ほらね」という例は「モテ」に関することだけではない。
 
 例えば「就職」でもそうだ。「え?心が傷ついて引き籠ってる?そんな甘ったれてるから就職できないんだよ」。
 
 しかし引き籠っていなかった時期も就職できなかったのではないのか。何十社、何百社と応募してきて、五百社目から不採用通知を受け取ったところでついに心がポキっと折れて引き籠もりになる。するとそれを待っていたかのように皆一斉に「引き籠もりとか、そんな甘ったれたことしてるから就職できないんだよ」。
 
 「そんなんだから結婚できないんだよ」も同様だ。これは、じゃあ「そんなん」ではなかったら結婚できたのか、というと決してそんなことはないのだ。
 
 「マザコンは結婚できない」。じゃあ、マザコンをやめたら結婚できるのか、というとそんなことはない。「不潔な男はモテない」。じゃあ、清潔にしていればモテるのかというとやはりそんなことはない。
 
 屁理屈と膏薬はどこにでも付くと昔から言うが、この「そんなんだからモテないんだよ」論法は、自分たちがその人を苦境に追い込んだことの負い目から目を逸らすために、後付けでもっともらしい理屈を付けて、自分たちを正当化させて自分たちは正しかったのだと納得するために言ってるだけだ。
 
 そしてこの言葉のひどさは、ただでさえ追い込まれて自暴自棄になってしまっている人間にトドメを刺しているところにある。