漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

医療等IDへの期待と不安

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 巷間でほとんど話題になっていないが、この2018年4月から「医療等ID」がひっそりと段階的にスタートした。
 
 医療等ID(仮称)は、マイナンバーとは別に付与される個人個人の番号のようなものだが、「見えない番号」であるため自分が知ることはない。医療や介護の分野で連携的に個人をサポートできるよう導入される。
 
 「なんで新しい番号を作るの? 保険証の番号じゃ駄目なの?」
 
と思う人がいるかもしれない。私も最初、そう思った。保険証の番号は保険者が変わると変わってしまう。だから一人の人間を追尾的にサポートできないのだ。
 

縦割り、盥回しをなくすための医療等ID

 私はこの医療等IDにとても期待している。今まで「それは私の専門外だから知りません」、「ウチの管轄外なので他所に行って聞いてください」と、縦割りで盥回しにしてきたようなことがなくなるのではないかと思うからだ。
 
 そもそも保険証を使う人、医療機関にかかる人というのはだいたい体調が悪いわけで、そんな人を盥回しにしてはいけない。
 
 今までは「知らない」、「ウチでは分かりようがない」と言って逃れ得ていたことも、医療等IDが普及すれば知らないことではなくなる。医療や介護の分野において包括的、連携的なサポートが期待できる。
 
 一方で不安もある。三つほど上げる。
 

マイナンバーとは別になった医療等ID

  一つ目の不安。
 
 なぜ、個人番号(マイナンバー)では駄目なのか。
 
 医療等IDがマイナンバーとは別に作られたのは、それが機微情報に当たるから、という理由がある。マイナンバーで統一すると、「お金」と「医療情報(病歴等)」が結びつく。綱引きの原理で「お金」の側から綱をするすると手繰り寄せて、病歴等を悪用できてしまう危険性を防いでいる。性悪説に立って、センシティブな情報は守りましょう、という考え方である。
 
 だが、一方で医療行為はお金とも不可分に結びついている。病院にかかるのも介護を受けるのもお金がかかる。一人の人間を本当にサポートしようと思ったら、結局はお金の問題も出てくる。「あなたはお金を持ってないからお断り」と病院で門前払いされてしまったら、何のための医療等IDか。
 

意識の問題

  二つ目の不安は、人々の意識の問題。連携する仕組みを作っても、それを活用する人々の意識が「私はそんなことまで知らない」「私は関係ない」という意識のままだったら、せっかくの医療等IDも、公園の使われない遊具のようにそこに佇んでいるだけだ。
 

世界的拡張性の問題

  三つ目の不安は、世界的拡張性の問題。
 
 先日、NHKで、日本にやってくる外国人観光客が日本の保険に入っていないので治療費を払えない、という問題を取り上げていた。
 
 このようなID制度は、将来的な世界(外国)への拡張を視野に入れて作るべきだ。今や誰でも海外旅行は行くし、海外で病気や怪我になることもある。外国の医療ネットワークとも連携できてこそ、真のIDだ。これは今すぐやれ、ということではなく、将来的な連携を視野に入れた制度設計をすべきだということだ。
 
 また、これはマイナンバーに対しても同じことが言える。「マイナンバーは日本の制度なんだから日本国内のことを考えて作られているのは当たり前」と言うのではなくて、将来的には外国の類似した個人番号制度との統一、すなわち「世界統一ID」を視野に入れた制度設計が必要である。
 

医療等IDへの不安と期待と

  マイナンバーカードに保険証の機能が付く、というニュースが流れた時に、「逆に保険証にマイナンバーを載せればいいのに」とコメントしてる人がいた。
 
 それと似たようなことは来年2019年の7月から起こる。マイナンバーカードを持たない人のために、保険証の番号が少し変わって、マイナンバーではないものの、個人を追尾できるようになる。
 
 いくつか不安はあるものの、医療等IDの導入によって、今までの縦割りから横への連携が拡がって、より良い社会に近づくのではないかと期待している。そして人々の意識が変わっていくことも。