漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

キャッシュレス社会と新紙幣発行の不思議

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 政府が2024年頃を目処に新紙幣を発行するとして、その基本デザインを発表した。
 
 国はキャッシュレス社会を推進してるんじゃなかったの?
 
 「新紙幣を発行」って5年後も現金を使う気満々ではないか。
 
 政府もおかしいが、私ががっかりしたのは、普段から「全部キャッシュレスにしようよ。現金はもう古い」と言っていた人たちが「3Dホログラムで回転する肖像がどうなるのか楽しみ」などと言って、新紙幣発行のニュースに批判の声を上げなかったことだ。
 
 批判しないばかりか、「20年ごとの恒例行事だろ」と言ってる人を多く見た。情けない。
 
 たしかに今まで約20年周期で紙幣のデザインは変わってきたかもしれないが、この20年間の社会の変化を無視するのか?ここ数年は特にキャッシュレス化に力を入れてきたはずなのに、そういう変化は考慮せず、この先も20年周期の恒例行事を淡々と続けていていいのか?
 
「技術の継承という意味もあるんじゃないか」
 
と言ってる人も見た。
 
 もちろん、紙幣を伝統美術工芸品と見なし、それを大切に守っていくという観点からなら大事なことだろう。日本の紙幣の図柄は、とても高い技術を持った絵師が驚くべき緻密さと時間をかけて描いている。そうした職人技も含めて後世に伝え残していく価値があると思うなら、それは式年遷宮のようにどんなに時代や社会の有りさまが変わろうとも、きちんと伝えていくべきだろう。紙幣を伝統美術工芸品と見なすなら、新紙幣は銀行に配るのではなく、千葉県の国立歴史民俗博物館のようなところに展示し、伝統技術を引き継いでいる職人絵師が観覧者の前で描画を実演するのがいいと思う。それを観た子どもたちの中で感銘を受けた者が技を継ぎ、次代へと継承していくだろう。
 
 しかし皆、本当にそう考えているのだろうか。昭和前期まで存在した炭鉱夫の技術や、江戸時代に存在した飛脚の技術は、なぜ現代に継承されていないのだろう。
 
 私みたいに普段クレジットカードもナントカペイも使わない人間が新紙幣を好意的に言うならまだしも、普段から「現金は時代遅れ」みたいに言ってる人たちが新紙幣発行のニュースを好意的に受け取るのはどういうことなのか。本当に紙幣を100年後にも1000年後にも子々孫々、伝え残していくべきものだと思っているのか。
 
 一方では「キャッシュレス社会推進」と言い、一方では「新紙幣発行」と言う。ビジョンが無いのだ。
  
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