漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

マイナンバー制度が普及しない理由

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 マイナンバーの利用率が0.1%というニュース。
 
 因みにここでは、マイナンバー(番号)とマイナンバーカードを合わせて「マイナンバー制度」と言う。
 
 マイナンバー制度が始まってもう三年近く経つが、なぜ全然普及しないのか。
 
 それは「狙い」が無いからだ。私も当初は、国の「野望」や「陰謀」と言ったら大袈裟かもしれないが、「狙い」があるだろうと思っていた。
 
 マイナンバー制度の「狙い」は、とりあえず簡単に分かるものはある。「徴税」だ。これは国民の誰もが思っているだろう。「税金を厳しく取り立てたいから国はマイナンバー制度を作ったんでしょう」とみんな思っている。
 
 だが、それ以外の狙いが見えて来ない。
 
「国が国民を監視する社会を作りたいんでしょう」
 
と思ってる人も多いかもしれないが、その監視の動きもなかなか進んでいない。
 
 一般的にマイナンバー(番号)は行政側の話で、マイナンバーカードは国民側の話だが、今のところ普及してないのはマイナンバーカードだけでなくマイナンバー(連携)の方も普及していない。裏でマイナンバーの連携をいろいろ進めればもっと管理・監督が進むだろうにそれもしていない。
 
 国民がマイナンバー制度を利用しない理由は簡単で、一つは個人情報が筒抜けになりそうで怖いというもの。もう一つはマイナンバーカードを取得するメリットが今のところコンビニで住民票の写しが取れる、といった程度しかないというもの。
 
 一方、国がマイナンバー制度を普及させない理由は何なのだろう。質問すれば「国民の理解がなかなか得られないから」とか「国民のあいだでマイナンバーに対する拒否感が強いから」などといった答えがかえってくるだろう。
 
 だが、おそらくそうではない。
 
 国がマイナンバー制度を積極的に普及させない理由、それは「ビジョン」がなかったからだ。「ビジョン」は「狙い」と言ってもいいし「目的」と言ってもいい。すなわち、「マイナンバーを使ってこういう社会を実現したい!」とか「マイナンバーカードを使ってこういうことができる世の中にしたい!」だとか、そういう具体的な夢や希望が無かった。
 
 ではなぜ国はマイナンバー制度を作ったのか。
 
 それは「諸外国もそうしていたから」だ。
 
 米国、韓国、ヨーロッパなどの先進国には皆、個人番号制度がある。実際、今から十年以上前の話だが、ヨーロッパまで視察に行っていたりしたようだ。そうしてそれらの先進国の有り様を見て、「我が国も遅れをとるわけにはいかない」、「先進国の中で個人番号制度がないのは日本だけ。恥ずかしい」、そういう気持ちからマイナンバー制度を作った。
 
 で、試行錯誤の上、なんとか作り上げることに成功した。ホッとした。これでもう先進諸外国から「おたくの国には個人番号制度は無いんですか?」と馬鹿にされずに済む。「うちの国にもマイナンバー制度という立派なものがあります」、「日本のマイナンバーカードのICチップには最新のテクノロジーが使われているんです」と胸を張ることができる。
 
 完成してホッとしたところで止まってしまったのだ。
 
 もちろん大事なのはその先の運用、利活用なのだが、どのように活用したらいいのか分からない。
 
 そもそも作り始めのきっかけが「マイナンバー制度を作ってこういう社会を実現したい」ではなく、「どうやら海外の先進国には、だいたい何処も個人番号制度というものがあるらしい。日本だけ無いのはやばいんじゃないか」というところから始まっているので、制度ができた時点で目的も果たしてしまったような感覚になっている。その先の活用方法は分からないし、あまり興味もないのだ。
 
 国民がマイナンバー制度について詳しくなかったり関心がなかったりするのは致し方ない面もあるが、国がマイナンバー制度の活用の仕方を分かっていないのでは、ほんとうに「一応、作りました。使ってはいませんが」というものになってしまう。
 
 デジタルファースト法案でも「すべての手続きはデジタルでもできるように」という当たり前のことが言われているだけで、マイナンバー制度の具体的な利活用の道筋は示されていない。(もちろん当たり前のことだけでもやらないよりはマシだが。)
 
 マイナンバー制度は当初はもっとたくさんの利活用計画があった。ところがここ一、二年、それらの計画の話もまったく耳に入ってこないようになった。
 
 どうしてこうなってしまったのだろう。
 
 これも私の推測だが、マイナンバー制度を作っている時に参画していた外部の人たちが、制度の完成とともに去って行った。そこで残された政治家と官僚たちが「で、このマイナンバー制度っていうやつは、どうやって使えばいいんですか?」と困惑しながら立ち往生しているのが今なのではないか。
 
 大雑把にはそんな感じなのではないか。
 
 技術的なことに留まらず、利活用方法についても、外部の人に指示を仰ぐべきなのではないか。「そんなことは政治家がやるべきことで、外部の民間の人間が口出しするべきことではない」と言うかもしれないが、それなら尚更、政治家たちはマイナンバー制度の具体的な利活用をもっと早急に進めていく必要がある。
 
 このような状態を長く放置しておけば、国民からは「マイナンバー制度はやっぱり失敗だったね」と、どんどん過去形で語られてしまうだろう。
 
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