漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

女性の「おいしそう」=「食べたい」に気付かなかった話

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 もう、だいぶ昔の話。
 
 女性とデートをした時のこと。残念ながら恋人ではなく親戚の女性だったので、所謂「デート」ではないのだが。
 
 親戚の女性が上京してきたので、私が一日街案内をすることになった。当日、私は街や建物の歴史や由来などの話をしながら、なるべくその女性が退屈しないようにしながら二人で歩いていた。
 
 歩いている途中に女性が通りすがりの飲食店や菓子店などの前で、「ねえ、あれおいしそうじゃない?」と言うことが何回かあった。
 
 私は「そうだね。おいしそうだね」とだけ言って、そのまま歩みを止めずに再び歴史の続きを話し出した。
 
 その「おいしそう」が「食べたい」だとは思わなかった。
 
 私は「おいしそうだね」は、「おいしそうに見えるね」ということだと思っていた。そう言われれば確かにおいしそうには見えるので、「うん。そうだね、確かにおいしそうだね」と答えていた。
 
 私は「この一帯は元々、◯◯家の屋敷があった所で…」とか、「ここら辺の町名は江戸時代には◯◯と言って、その由来は…」というような話をしていたが、その女性は歴史にはあまり興味がなかったようで、私の話には「ふーん」とか「へー」と相槌を打っていて、それで歩いている途中にときどき「あ!あれもおいしそうじゃない?」と言うのだった。
 
 食べ物にあまり興味がない私は、指さされた方向を見て、なるほど確かにおいしそうには見えるな、と思って「そうだね。おいしそうだね」とだけ返事して、ことごとくそういった店の前を通り過ぎて行った。
 
 あのデート中に何回か発せられた「あれ、おいしそうじゃない?」が「食べたい」の意だったのだと私が気づいたのは、後日になってからのことだった。「食べたい!」、「いっしょに食べていこう!」と言ってくれれば、もちろん一緒に食べてよかったのだが…。