漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

はてなスターの衝撃

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 初めて「はてなスター」を知った時は衝撃だった。
 
 はてなスターというものがある。フェイスブックの「いいね!」、ツイッターの「ふぁぼスター(現在はハートマーク)」、YouTubeの「Like(高評価)」ボタンなどと同じで、賛意を示すボタンである。
 
 しかし、はてなスターは、それらの賛意ボタンとは本質的に大きく異なるところがある。
 
 はてなブックマークというサービスがあって、昔からよく見ていた。が、自分では使っていなかった。はてなに登録していなかった。だからブックマークコメントに付いているはてなスターが、賛意や支持を示すものであることは分かっていたものの、自分がスターを付けたり付けられたりすることはなかった。
 
 数年経って、はてなにユーザー登録し、自分も他の人のブックマークコメントにスターを付けることができるようになった。また、自分もコメントをすることができるようになった。そしてコメントをしていたある日、初めて自分のコメントにスターが付いた。そうか、自分のコメントにスターが付くこともあるのか。初めてスターをもらってうれしかった。そして急にスターにどんな意味や価値があるのか、興味を持って調べ始めた。そしたら、衝撃の事実が待っていた。
 

衝撃その1、金銭的価値が無い 

 
 このスターを集めたらどんな良いことがあるんだろう、と急に興味を持って調べ始めた。 スター1個につき1円と交換できる、とか。Amazon楽天ポイントに交換できる、とか、そういうのがあるのかも。 
 
 なかった。
 
 そのような金銭的価値はまったくなかった。
 
 しかし、はてなには「はてなポイント」という自社サービス内で流通する独自のポイント制度があったはず。ところが、これにすら連携していなかった。はてなポイントを使ってカラースターを購入することはできるが、スターを使ってはてなポイントを購入することはできない。
 
 自社ポイントにも交換できない「はてなスター」とはいったい何なのか。
 

衝撃その2、連打ができる

 
 しかし、金銭と交換できないボタンというのは、他にもある。
 
 フェイスブックの「いいね!」、ツイッターの「ふぁぼスター」、YouTubeの「Like」ボタン等々。これらのボタンは金銭的価値は無いものの、「いいね!」や「高評価」をたくさん集めることでブランド価値を高めることができる。だから、フェイスブックでも社員や関係者を総動員して「いいね!」ボタンを押させて、その商品ページの価値を高めようとしたり、YouTubeでもやはり友人やファンに高評価を押してもらって動画価値を高めようとする動きがある。
 
 ところが、はてなスターは、これらのボタンと決定的に違っているところがある。それは、連打ができてしまう、というところだ。これは些細な違いのようで大きな違いだ。「連打ができる」と知ったときの衝撃は大きかった。そんなのは聞いたことがない。
 
 これらの似た意味を持つボタンたちとはてなスターを比較してみよう。
 
  • YouTube「高評価」:一人一回まで押せる。「低評価ボタン」もある。
 
 こうして見ると、他サービスの賛意ボタンが必ず「一人一回まで」という決まりを設けているのに、はてなスターにだけその制限が無い。
 
 フェイスブックのいいね数や、YouTubeの高評価数がある程度参考値として機能しているのは、一人の人が(普通は)連続で押せない、ということが前提にある。もし連打できてしまったら、本人や関係者による連打合戦になり、そのうち、いいね数や高評価数はまったく当てにならない、ということになるだろう。普通はそのように設計するものだ。
 

衝撃その3:誰がスターを押したかわかる

 
 はてなスターは誰がスターを押したかがわかる。スターを付けてもらった人だけではなく、関係ない第三者でもわかる。だから一人の人が連打していたら、それも全部わかってしまう。
 

はてなスターの価値

 
 つまり、はてなスターは、1.金銭的価値と結び付いてない(何のポイントにも還元できない)、2.連打できる、3.誰が押したかわかる、という三つの大きな特徴により、まったく「無価値」なものになっている。
 
 しかし、逆にこれこそが、はてなスターの「価値」と言えよう。
 
 よく、こんな不思議な設計にしたと思う。もし、はてなスターが「1個1円」などと換金できる仕組みだったら、はてなの世界はもっと俗悪なものになっていただろう。金稼ぎが目的の悪徳低質な記事やコメントで溢れかえり、バトルももっと酷いものになっていただろう。
 
 また、「連打ができる」という普通はなかなか思いつかない発想も、上手く機能していると思う。
 
 はてなブックマークで、自分のお気に入りのコメントを上位に押し上げり目立たせるためにスターを連打することは可能である。だが、誰がいくつスターを付けたかわかってしまうため、自作自演や隠れた“犯行”のようなことはできない。連打で意図的に上位コメントを操作しようとしてもすぐにバレてしまう。結果的に、はてなブックマークコメント欄では、ほとんどの人がスターは1回か多くても3回くらいまでしか押してない。連打して反対意見の「相手」を上回ろうとすることは可能だが、そうすると相手も負けじと連打してくるだろうから、それは消耗戦になってしまってお互い疲れるだけになる。だから誰もやらない。
 
 つまり、連打という悪さをしようと思えばできるけど、誰でもできてしまうが故に、そしてスターを集めたところで何も得することがないが故にやらない、という仕組みが見事に成り立っている。
 
 「いいね!をいくら押してもお金には換えられませんよ」というところまではフェイスブックツイッターと同じだが、「連打できる」という機能はフェイスブックツイッターも成し得なかった、はてなの発明なのではないか、と言ったら大袈裟だろうか。
 
 連打できるという性質が「いいね数(スターの数)」さえ無価値にした。はてなスターには「もらったらうれしい」という意味しかない。その圧倒的無価値こそが、他の賛意ボタンにはない、はてなスターの異色の点であり長所と言えるだろう。
 
 やや難しい言い方をするなら、はてなスターだけが資本主義的価値観の世界から少し抜け出しているとも言えなくもない。
 
 はてなブックマークはてなブログのある程度の質を支えているのは、もしかしたらこの圧倒的無価値の性格をもったはてなスターかもしれない。