漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

Libraホワイトペーパーを読んで

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フェイスブックがLibraの詳細を発表 

 フェイスブックが暗号通貨「Libra」のホワイトペーパーを発表した。文書の最後に「ぜひご意見をお寄せください」と書いてあったので、感想文を。
 
 私は、Libraには今はまだ懐疑的だ。ホワイトペーパーを読んでも「すごい!」という感想はなく、ただパートナー企業はすごい顔ぶれだとは思った。
 
 ホワイトペーパーには良いことが書いてある。
世界中で、貧しい人ほど金融サービスを受けるのにより多くのお金を払っているのが現状です。一生懸命働いて得た収 入は送金や借越やATMの手数料に消えていきます。
  立派な心がけだ。
人には合法的な労働の成果を自分でコントロールする生まれながらの権利がある、と私たちは考えます。
私たちには全体として、金融包摂を推進し、倫理的な行為者を支援し、エコシステムを絶え間なく擁護する責任がある、と私たちは考えます。 
 口座を持たない貧しい人々に届くサービスを作りたい、という理念は一見すばらしい。「倫理的な行為者を支援し」と書いてある。フェイスブックをはじめ、参加企業が本当に倫理的に行動するなら、それはすばらしいことだと思うし、応援したい。
 
 しかし、本当だろうか。
 
 もし、このLibraの発表でフェイスブックの株が上がるのなら、それは「貧しい人々のため」ではなく「フェイスブックのため」だ。
 

私が感じる三つの懐疑点 

一、電子マネーと何が違うのか
二、フェイスブック主導でオープンなサービスができるか
三、貧しい人々が救われるか
 

一、電子マネーと何が違うのか

 Libraは、いわゆる従来の「電子マネー」と何が違うのだろう。Libraはステーブルコインだという。とすると、価値の源はドルにある。Libra自体に価値はない。Libraの価値があるとすれば、それはおそらく「使い勝手」にある。使い勝手をある程度自分たちで自由にデザインできる。デジタルであることの使いやすさはもちろん、初めから参加企業が多いので、使う用途も豊富にありそうである。ただ、それ以上の新しい魅力を今のところ見出だせない。ブロックチェーンを使う理由も見出だせない。従来の電子マネーで実現できそうなことになぜブロックチェーンを使うのかがわからない。 
 

二、フェイスブック主導でオープンなサービスができるか 

 「オープンソースにする」と言っているし、「オープン」にこだわっている。ブロックチェーンも最初は許可型だがいずれ非許可型に持っていきたいと言っている。
 
 だが、私の中のイメージでは、フェイスブックはオープンとは逆の世界から来た企業だ。
 
 フェイスブックはオープンなインターネットの世界の中に、会員制のクローズドなサービスを作った。フェイスブックが楽しくないというのではない。会員になったらおそらく楽しいだろう。そういうサービスは他にもいっぱいある。アマゾンもグーグルも楽天も、アカウント登録さえすればそこには便利で楽しい世界が広がっている。
 
 しかし、オープンにして貧しい人々にサービスを届けるということは、フェイスブックがこれまでやってきたクローズドなサービスとは真逆のことである。「会員登録したら便利で楽しいサービスが使えますよ」というのは当たり前なのである。それは「銀行に口座を作ったらなにかと便利ですよ」と言ってるに等しい。
 
 銀行の口座を持てない人たちにも届くように、という理念で始めるサービスなら、なんらかの「会員制」の形を取ってはいけない。Libraは最初は「許可型ブロックチェーン」から始めるがゆくゆくは(5年以内には)「非許可型ブロックチェーン」に移行したいと言っている。だが、合意形成アルゴリズムとしてBFT(Byzantine Fault Tolerance)を採用しているらしい。この「会員制」の性格が強いアルゴリズムでどうやって非許可型ブロックチェーンに持って行くのだろうか。(追記:5年以内にPoS(Proof of Stake)に移行する予定であるとのこと。)
 
 今までさんざんクローズドなサービスを提供してのし上がって来たフェイスブックが、オープンなサービスを作っていけるのだろうか。 
 

三、貧しい人々が救われるか 

 銀行口座を持てない貧しい人々を救いたい、という理念からの行動であれば、私は応援したい。
 
 しかし「金融包摂」というのは難しい。
 
 インターネット自体がそうだが、ネットワークというものは双方向性を持っている。今まで金融ネットワークに繫がっていなかった人たちが、Libraネットワークに包摂されることで、却ってGAFAのような大企業に搾取されやすくなるのではないか、という危惧がある。
 
 ステーブルコインはビットコインよりも法定通貨に近い。それは人々の生活を助ける利便性の高さという利点でもあり、弱肉強食の市場原理に絡め取られやすいという欠点でもある。
 

まとめ

 今回の発表を見て感じたのは、参加企業の顔ぶれのすごさである。ebay、PayPal、stripe、Coinbase、xapo、VISA、等々。これだけの企業が集まれば、確かに世の中にたいして何らかの影響力を及ぼすものになるかもしれない。
 
 それだけに心配なのだ。これらの大企業が社会的責任を第一義に考えて行動できるか、それとも「わたしたち会員企業が儲かりました」に終わるのか。フェイスブックは今やチャレンジャーではない。世界的な大企業である。その大企業が本当に「自分たちの利益のため」よりも「貧しい人々のため」に行動できるか、暫く注視したいと思う。
 
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