漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

給与はなぜ月一払いなのか

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klimkinによる画像

 
 かなり前から疑問に思っている。給与はなぜ月一払いなのか。
 
 (註:この記事には答えは書いてありません。)
 
 一般的な会社員、月給制の社員の給料はなぜ月一回払いなのだろう。以前からずっと疑問で夜もたまに眠れない。「給与_月一払い_理由」などで検索しても、どこにも答えが書かれていない。疑問を発している人もいない。
 
 ちなみに「月給」は「月一払い」とは意味が違う。月給とは給与の金額が月額で定められているという意味だ。時給制のアルバイトで働いている人は一時間ごとに給与が振り込まれるわけではない。時給制であっても給与は月に一回まとめて払われる。
 
 ネットで調べると「二か月に一回とか半年に一回という払い方は労基法違反だから駄目なんです」と書かれている。それは分かっている。労基法では、給与は「月に一回以上、日を定めて払うこと」と決められている。そうではなくて、私が知りたいのは逆の方、すなわち「月に二回」とか「週一」という払い方がなぜ無いのか、ということである。
 
 少し調べてみたら、外国には給与は「月二回払い」というところもあるらしい。法律では「月一回以上」と定められているのだから、月二回でも四回でも三十回でもいいはずなのだ。
 
 なぜ駄目なのだろう。手数料がかかるから?でも「手数」って何だろう。何の手数?銀行への振込手数料?しかしそれは銀行を介するから発生するわけだろう。今年2019年中にも、給与のデジタルマネー払いが解禁される、というニュースもある。そうなればもう必ずしも銀行を介して給与を払う必要はないわけだから「手数料がかかる」というのは意味が分からなくなる。
 
 少しだけ歴史も調べてみたが、日本で「給与の月一払い」が慣習化したのは戦後のことらしい。つまり江戸時代とかそこまで起源が古いわけではない。しかし、なぜそれが慣習化したのか、つまりなぜそれが「当たり前」になったのか、は分からないのだ。
 
 そして、戦後、仮に昭和30年頃としても、それからもう65年近くもこの月一払いという習慣は変わっていないのだ。その間、紙幣を給料袋と呼ばれる封筒に入れての手渡しから銀行振込へと渡す方法は変化したが、「月一払い」の方は誰にも疑問を持たれることもなく旧来のあり方がずっと続いている。
 
 21世紀にもなって、こんな戦後の旧いやり方が踏襲されているのは驚くべきことだ。
 
 私は給与はできるだけ「リアルタイム払い」に近づけるべきだと思う。
 
 ネットで調べるとだいたい「賃金支払いの5原則」というものが出てくる。労働基準法で定められた賃金の支払いにおける5つのルールで、
 
1. 通貨払いの原則
2. 全額払いの原則
3. 直接払いの原則
4. 毎月1回以上払いの原則
5. 一定期日払いの原則
 
の5つのことを指すらしい。
 
 だが、先ずこのルールからしてツッコミどころだらけなのだ。1の通貨払いというのは「現金じゃなきゃ駄目ですよ」ということであり、3の直接払いとは「手渡しじゃなきゃ駄目ですよ」という意味だ。つまり「給料は現金手渡しで払いなさい」ということなのだ。だが、今、日本の会社で給料を現金手渡しで払っている会社がどれだけあるだろう。およそ9割方は銀行振込ではないのか。銀行振込はなぜかこの原則の「例外」として認められているらしい。これもよく意味がわからない。
 
 最近になって「給料を電子マネーで払ってもよい」という方向に法律が変わろうとしている。今まで電子マネーはなぜ駄目だったのだろう。それも検索して調べると「電子だから」と書いてある。だが、それを言うなら銀行振込だって「電子」だ。今まで何十年もの長きにわたって電子で払ってきたのに「電子だから駄目」というのは理屈が合っていない。
 
 で、話を本筋に戻すと、4の「毎月1回以上払いの原則」や5の「一定期日払いの原則」あたりが関わってきそうだ。
 
 「毎月1回以上」、つまり1年に1回とかそういう払い方は駄目だということだ。これはわかる。「10年後にまとめて一括で給料を払います」と言われたら、10年間まったくお金が入ってこないことになってしまう。だが「1回以上」なのだから、月に2回とか3回とか週に1回とか、そのように増やすことは可能なはずである。
 
 そしてこれを突き詰めて行けば、1日1回、すなわち「毎日払い」も可能になるはずだ。これは「日雇い」とか「日給制」とは話が違う。あくまでも月給制において30日なら30分割して日毎に払うということである。毎日定期的に払うわけだから、5の「一定期日払いの原則」にも反していない。
 
 なぜ、そうしないのだろう。
 
 考えられる反論が3つある。
 
1「振込手数料がかかりすぎる」
 これはおかしい。今は振込手数料がかからないサービスはいっぱいある。
 
2「手間がかかる」
 これもおかしい。何十年も昔ならいざ知らず、今はコンピューターが給与計算も、その後の従業員の口座に振り込む手続きも全部やってくれる。手間は無いはず。
 
3「経理上、複雑になる」
 経理のことはよくわからない。これが理由?
 
 あと、ネットで調べていて、「25日に払われる給料の一部を15日に受け取ることは給料の前払いになる」というようなことが書いてあって、これも納得いかなかった。15日に1日から15日まで働いた分の給料を受け取るのだから「後払い」ではないか。前払いというのは「まだ働いていないのに払う」のが前払いで、働いた後に払うのは後払いだ。
 
 給料は働いた日の分まで、なるべくリアルタイムに払われるべきだ。例えば、営業日が月に20日あって、月給20万円の人は、毎営業日の夜に1万円づつ払われるべきだ。
 
 さらにこれを究極に突き詰めると、月給25万9000円の人には、10秒に1回、1円づつ払っていけば、月内に給料を払い終えることができる。(※一か月30日以上ある場合。)もちろん、夜中も不眠不休で10秒に1回ボタンをクリックしなければいけないわけではない。すべてコンピューターが自動でやってくれる。
 
 デジタルマネーでの給与払いを解禁するならば、この「月一払い」という奇妙な旧来の風習の見直しとセットでなければいけない。
 
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