不思議な光景だった。
責任者なのに「知らなかった」と言うことをまったく恥ずかしいとも思っていない。
弁護士仲間たちは、「ゴーンが100%悪いと言いたい。でも、そうとも言い切れない気持ちもある」と言った。「そうとも言い切れない」の部分は、「日本の司法制度や検察の在り方にも問題がある」ということだ。
弁護士仲間たちの言い分は、「ゴーンが100%悪い派」か「ゴーンが97%悪いが3%ぐらいは日本の司法制度も悪い派」か、あなたはどちらですか?という二択を迫るものだ。驚くべきことにこの二択の中には、ゴーンをちゃんと見てることを条件に保釈させたのにミスミス見逃した弁護団の責任が1%も入っていない。
ところで、法務省の「入国管理局」というものはない。昨年2019年の途中まではあった。今は「出入国在留管理庁」と名前が変わっている。名前の中に「出国」が加わった。今まで67年間も「入国」という名前だったのに「出入国」と名前を変えた途端にゴーンの出国を許した。
忘れている人も多いだろうが、難民申請などをして日本にやって来た人たちの着替えやトイレまで監視していることが問題になったのはつい最近のことだ。
弱い者に対しては着替えまで覗き、強い者(VIP)に対しては「どうぞお通りください」。この露骨な態度の違い。そして、この出入国管理局の“醜さ”を誰も批判しない。
弁護士たちはゴーンに同情するばかりで、出国を許した責任を問わない。政府はもとよりだんまり。国民の中にも「我が国は三権分立なのだから政府がこの件に口を出すべきではない」というおかしなコメントをしている人がいる。政府に司法判断に口を出せと言っているのではない。「管理庁」がきちんと「管理」をできていなかったのだから、その責任は問われなければいけない、と言っている。
2017年3月に東日本入国管理センターで死亡したベトナム人男性は収容当初から体の痛みの訴え3月17日には口から泡と血を吐き失神する症状が出るも病院で治療を受けられず
2017年1月17日21時頃に、関西国際空港第2ターミナルで2、同空港発香港行ピーチ・アビエーション機の最終便の離陸直前に、搭乗した家族の女性が、乗客に書類を渡すよう、同税関関空税関支所の職員に依頼。その際、職員は保安検査を受けさせることなく、女性を出国審査場まで通過させていた
「小物」に対しては「おら!」などと強い態度で臨むが「大物」に対しては手を擦り合わせながら「どうぞお通りください」という態度。
この醜さを誰も糾弾しない。
この「ゴーン出国見逃し」を誰も追及しない。本来追及しなければいけないはずの野党も。野党や野党支持者層は「むしろゴーンに同情する。中世のような酷い日本の司法制度から逃げることができてよかったね」と思っている。
一方、与党およびその支持者層はもとより追及しない。出入国在留管理庁は法務省の所管でありそのトップである法務大臣の責任が問われるからだ。税関は財務省だから財務大臣にも、そして外務大臣、それらの大臣の任命責任がある総理大臣の責任にも話は及んでくる。
マスコミが法相の責任を問うていた時に、国民が「だって正月休みだったんだから仕方ない」と言っている呆れたコメントもたくさん見た。まさにその年末年始の警備の薄さを突かれて出国されたのではないのか。
沈黙している与党政治家たちの無責任、関係省庁の無責任、弁護団の無責任、「日本の司法制度にも問題がある」と別の問題を持ってきて見逃しを問わない野党と支持者たちの無責任、「正月休みだったから仕方ない」などと呑気なことを言って問題を問わない国民の無責任。
ゴーンはこの無責任大国の間隙を突いて、と言うよりは大きな穴から堂々と出て行ったのだ。
天才現る https://t.co/UKlj39aibt pic.twitter.com/beVh6MvoaF
— SOE (@SOE_2020) January 14, 2020
すべての関係者が(知らなかったなんて恥ずかしくて言えない)という気持ちは微塵も持たず、「私は逃亡計画なんて知りませんでした。逃亡計画に加担していません。なので全然無関係です」と真っ先に自己保身の表明を口にする日本人。
「巻き込まれなくてよかった~」と内心ホッとしているのだ。
ヘタに捕まえに行こうとすると、捕まえられず取り逃してしまった時に国民から責任を追及されるから、相手がこういう大物の時は、最初から「それは自分の担当の仕事ではありません」という顔をしておいた方がいいのだ。
皆そう思っている。
ゴーン出国見逃しの責任は問われることがない。
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