漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

WBCの盛り上がりを見ていて感じた“自分たちだけで盛り上がり自分たちで拍手する”ことへの違和感

 WBCが盛り上がった。日本中が優勝に湧いたようで、決勝戦の視聴率は平日の午前中にもかかわらず40%超えだったそうな。
 
 しかしWBCは日本人しか見ていなかった。ヨーロッパでは野球人気は低くほとんどの人がWBCを見ていない。開催されていることすら知らない人が多いだろう。アフリカもそうだ。アジアも大半の地域では野球は人気がない。南米もそう。アメリカはWBCという大会の言い出しっぺだがWBCに対する興味関心は低く、ほとんどの人が見ていないと言う。
 
 関心をもって見ているのは中米と東アジアの一部の小さな国々だけ。メキシコ、キューバプエルトリコベネズエラ、日本、韓国、台湾等々。しかしこれらの国々も観戦するのは自国が勝ち上がっている段階まで。敗退した後の大会は見ていない。韓国国民は第1ラウンドまでは見ていただろうが決勝トーナメントは見ていない。「結局日本が優勝したらしい」ぐらいは知っているかもしれない。この結果、決勝戦は日本人とアメリカ人しか見ないことになり、アメリカ人はWBCに関心がないのでほぼ日本人しか見ていないという状況になった。
 
 この「自分たちだけで盛り上がり、自分で拍手する」という状況が虚しい。皆は虚しくないのだろうか?
 
 このように言うと、「せっかくの良い気分に水を差すな」とか「嫌なら見なければいい」と言う人がいるだろうが、私は嫌どころか、今大会の日本チームは素晴らしかったと思っているし、決勝戦もとても素晴らしい試合だったと思っている。大谷選手も他の選手も皆素晴らしかった。そのせっかくの素晴らしい試合を、日本人しか見ていないのはもったいないと思いませんか?もっと世界中の多くの人に見てもらいたいと思いませんか?
 
 これはオリンピックの度にも感じることだ。皆、自国の選手が活躍している競技種目しか見ない。ある小さな国の選手がマイナーな種目(セーリング水球馬術近代五種等々)で金メダルを獲る。
 
外国人「昨日の高飛込の◯◯選手の演技は踏み切りから着水まで完璧でした。金メダルに国中が湧きました。一夜明けた今でも興奮と感動が冷めやりません。日本の皆さんもご覧になりましたか?」
日本人「すみません、見てません。そんな競技があっていたことも知りませんでした」
外国人「見ていない?なぜ?『◯◯選手のパーフェクトな演技に世界が驚嘆!日本のメディアも絶賛!』とネットに出ていました」
日本人「日本のメディアが?高飛込の選手を?絶賛?へぇ〜初耳」
 
 自国の◯◯選手のパーフェクトな演技が世界中で絶賛されていると思っていたのに、日本人に聞いてみたら「誰もそんなの見ていない」と言われ、その外国人はさぞやがっかりするだろう。「自国の選手が活躍している競技種目しか見てないって、それはどこの国も同じでは?」と言う人がいるが、それを世界中の国がやった結果、ほとんどの競技種目において「自分たちだけで盛り上がり自分たちで拍手する」の状況が生まれてしまっている。
 
 「自分たちで盛り上がるだけで充分じゃないか」と言う人もいるが、その割には外国人からの評価をとても気にする。YouTubeは、日本のモノ(物や人物や音楽や食べ物等)に対して大袈裟に驚いたり褒めたりする外国人のリアクション動画に溢れている。「海外の反応」動画で簡単に日本人が釣れることを学んだ外国人たちが最近は大量の外国人のリアクション動画を作成してアクセス数と広告収入を稼いでいる。
 
 サッカーファンの中には「私は日本の試合だけではなくヨーロッパ勢の試合も見ています」と言う人がいるかもしれない。しかしそういう人でも、日本より強い国々の試合だけだ。ワールドカップのアジア予選やアフリカ予選で、日本より弱い国々の試合まできちんと目を通している人はほとんどいない。「そりゃ、自分たちより弱い国の試合なんか誰も興味ないでしょう」と言うのなら、「日本人サッカー選手◯◯のプレーに世界が驚嘆!」などというウブな信じ込みはやめるべきだ。
 
 私はWBC侍ジャパンのことをくさしているのではない。素晴らしい選手たち、素晴らしい試合だと思うからこそ、その素晴らしい試合を日本人だけで見て、日本人だけで拍手している状況を虚しく思う。