漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

図書館は寝るところ

wal_172619による画像
 
 以前、「図書館の役割って何なの?」という話題を見かけた。
 
 私は図書館は寝るところだと思っている。
 
 「図書館は寝るところ」というのはやや象徴的な言い方である。だが究極的にはやはり寝るところだと思っている。むしろ寝るところでなかったら何なのか。
 
 図書館の役割として、「書籍の保存」を上げる人もいる。国会図書館大学図書館都道府県立図書館などの大きな図書館はたしかにそのような役割があるが、街の小さな区立・市立図書館には、地域の郷土資料などを除けばそこまで保存という役割は求められていない。
 
 あるいは「貸出とレファレンスだ」と言う人もいるが、貸出は電子でできるだろう。レファレンスもメールなどの電子でできる。
 
 日本人はなぜか若い世代まで含めて、本=紙の本、と思ってる人が多い。図書館の定義として、日本語版、英語版それぞれのウィキペディアに書かれていることが象徴的だ。
 
 これが日本語版の「図書館」
図書館(としょかん、英: library、独: Bibliothek、仏: bibliothèque)とは、図書、雑誌、視聴覚資料、点字資料、録音資料等のメディアや情報資料を収集、保管し、利用者への提供等を行う施設もしくは機関である。
 
 こちらが英語版の「Library」
A library is a collection of materials, books or media that are accessible for use and not just for display purposes. A library provides physical (hard copies) or digital access (soft copies) materials, and may be a physical location or a virtual space, or both. A library's collection can include printed materials and other physical resources in many formats such as DVD, CD and cassette as well as access to information, music or other content held on bibliographic databases.
 
 英語版では「digital access」や「virtual space」に触れられている。日本語版にはない。海外と日本の、本や図書館に対するイメージの違いがよく現れている。
 
 「図書館」という言葉に何のために「館(やかた)」という言葉が入っているのか、よくよく考えるべきだ。「館」というのは建物のことである。
 
 ホームレスの人は夏は暑くて外にいるのもしんどい。暑すぎて寝ることもできない。カフェは有料だから入れない。そんなとき、無料で入れて冷房も効いている町の図書館はホームレスの人たちにとって束の間の休息ができる場所だ。
 
 町の図書館の新聞コーナーには、定年退職後と見られるおじいさんたちがたくさん座っている光景をよく見かける。新聞を読むだけだったら自宅でPCやスマホから読める。わざわざ図書館に足を運んでいるということは家の中に居場所がないのだろう。家の中にいると邪魔者扱いされるのかもしれない。
 
 小さい子どもたちに絵本を読み聞かせするコーナーもある。パパママたちは暫時、子どもから手を放すことができる。またパパママたちの交流の場になることもある。狭い家の中でずっと子どもと二人で向き合っていたら育児ノイローゼになるだろう。
 
 図書館の役割は、こうした行き場のない人たちの「居場所」の提供である。繰り返しになるが、貸出やレファレンスなら電子でできる。それなら電子ライブラリーを作ればよいのであって、「図書館」という建物を建てるからには、「建物」でなければ提供できない価値について考えるべきだろう。
 
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