日本のマイナンバー制度の情報連携システムにおいて、ブロックチェーンを活用する試みが検討されている。もしうまくいけば、エストニアなどの小国を除いて、大規模なシステムにおけるブロックチェーン活用の世界でも先進的な成功事例になる。
ブロックチェーンは確かに、記録の改竄不可能性や取引記録の追跡可能性など、「社会」に応用するのに適した性質を持っている。そうした「利点」は、今までもブロックチェーンについて語られる時に常に言われてきたことだ。
一方で、私には懸念点もある。それはブロックチェーンの「PoS」の原理である。
PoSの原理と資本主義
一方でブロックチェーンを活用することには懸念点もある。
PoSの原理は基本的に資本主義(的)である。PoSには、ステークホルダーつまり持てる者はますますモテ、持たざる者はますますモテない、という問題があると思っている。
PoSはもともとPoW(Proof of Work)に対する批判として生まれた。PoWは、その採掘作業のために大量の電力を消費するのでエコではない、といったような批判だ。
ビットコインはPoSではなくPoWだが、それでも似たような問題が起きている。少数のマイナー(採掘者)の発言力が大きくなり、ルールそのものを変えようとする力を持ってきている。強力なハッシュパワーを持つ者がますます富む、と考えれば、これもPoSと同様の問題だと言える。
公開型か許可型か
社会に適用していく時に、公開型と許可型のどちらのブロックチェーンが使われていくようになるかはまだ判らない。
イーサリアムの注意点
PoSの派生、DPoSと民主主義
有名なオルトコインであるNEM(New Economy Movement)はPoSではなくPoI(Proof of Importance)を謳っている。私にはPoSとPoIがどれほど違うのか分からない。私はPoIも広い意味でのPoSだと理解している。
また、別のオルトコインのBitSharesやLiskはDPoS(Delegated Proof of Stake) を採用していると言われている。これは委任投票の仕組みが入ったPoSだ。悪意のあるハードフォークなどを防げるとしている。
これは現実の政治の仕組みととてもよく似ている。実際に国政を行うのは国民ではなく、国民から選挙によって選ばれた政治家である。国民からの一定の支持数(投票数)が必要なので政治家は悪いことはできない、あるいは悪い人は選ばれない、と言えるだろうか。カリスマ的人気のある“悪い”人が国民の熱狂によって選ばれてしまう、ということは歴史上何度もあったことだ。DPoSは「民主主義だから安全安心」と言ってるように聞こえるが、果たして本当にそう言えるだろうか。
民主主義あるいはその表現方法の一つである多数決の弊害である「少数者の意見が搔き消されてしまう問題」や、資本主義の弊害である「モテる者はますますモテ、モタざる者はますますモテない問題」をPoSは全然解決できない。解決できないどころか、それらの問題を従順に継承してしまっているように見える。
ブロックチェーンはもっと美しく
ブロックチェーンにかぎらず、新しい技術は、弱く貧しく苦しんでる人を助けるために使われなければならない。現状、特に日本では、ブロックチェーン技術は「フィン系」と「テック系」の観点からばかり語られている。「フィン系」とは即ち儲かるか儲からないかという話であり、「テック系」とは技術的にできるかどうかという話である。ブロックチェーンを応用して、社会をどう良くしていくか、という話が少ない。
私はブロックチェーンに期待しすぎているかもしれない。
20世紀には資本主義の、21世紀に入ってからは民主主義の弊害がたくさん見えてきた。今、世界で一番民主主義的な国家である米国で、民主主義的手続きによって選ばれた大統領は、世界で最も独裁的な人である。
インターネットに次ぐ大発明と言われるブロックチェーンによって、資本主義の弊害や民主主義の弊害が是正されることを期待している。なぜなら、最も有名なブロックチェーンであるビットコインブロックチェーンは、貨幣だから金融・資本とは関聯が深いし、アルゴリズムは複数のノード間の合意の問題を扱っているから民主主義とも関係が深いからだ。
私はブロックチェーンには将来的な可能性を感じ期待しているからこそ、それは“美しく”あらねばならないと思っている。「持てる人がますますモテて、持たざる人はますますモテなく」なるような原理を社会に持ち込むべきではない。インターネットやウェブが少し強めた市場原理をさらに強めるだけならブロックチェーンは要らない。
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