漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

デジタル・ガバメントへの3つの提言

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1. 申請主義からの脱却

 デジタル・ガバメントの基本的な考え方は大体賛成だ。ワンス・オンリーもコネクテッド・ワンストップも諸手を挙げて賛成だ。
 
 00年代の「電子政府」化計画は単に紙をデジタル化するだけのものだった。今回は単なるデジタル化ではない、という意味を込めて、「電子政府」から名前を変えて「デジタル・ガバメント」としている思想にも賛成だ。
 
 しかし、ここまで思想を根本から見直し再構築しているのに、「申請主義」について一言も触れていないのは奇妙だ。
 
 何故なのか。
 
 「根底から見直す」と言っても、さすがに申請主義についてまで触れてしまうと、それはもう本当にそもそもの土台からの話になってしまう。さすがにそれは、話が大掛かりになりすぎてしまうことを、あまりにも「そもそも論」になってしまうことを恐れているのか。
 
 計画の趣旨に「安心、安全かつ公平、公正で豊かな社会を実現する」とあるが、申請主義に触れないのでは、真の「安心、安全かつ公平、公正で豊かな社会」は実現できない。これができないようでは、「デジタル・ガバメント実行計画」は始まる前から半分死んでいる。
 
 どうしてこのような“間違い”を犯しているのか。
 
 「サービス設計12箇条」が第1条「利用者のニーズから出発する」から始まっている。こういうところに誤りがあると思う。
 
 利用者のニーズから始めてはいけない。
 
 利用者のニーズというところから始めると、「自動改札は右側が便利か左側が便利か」という些末な話から始まってしまう。デジタル・ガバメントは大思想でなければならない。利用者のニーズを待ってから話を始めるとどうしても些末なところに落ち込んでしまう。それに利用者は「ニーズ」を知らない。デジタル・ガバメントでどういうことができるようになるのかを知らない。誰もニーズの声を上げない。「国民のニーズがないから私たちは動かなくてもいいですね」となってしまう。利用者のニーズを待たずにリードしていくデザインでなければならない。
 
 抑々、「利用者」でもあるが「適用者」「対象者」でもあるのだ。
 
 マイナンバー制度の目的の一つに「社会保障」がある。
 
 「孤独死」が増えている。無縁社会において誰にも助けられず亡くなっていく人がいる。「ワンスオンリー」や「コネクテッドワンストップ」はこうした社会的弱者を扶けるのに役立つ。だが、申請主義の壁が立ちはだかる。
 
 弱者はIT機器の使い方を知らない。パソコンもスマホも持っていない。体が弱っているから役所まで足を運ぶこともできない。便利なサービスがあること自体も知らない。社会的人間関係が無いから誰から教えてもらうこともない。
 
 こういう人を助けられないんだったら、何のためのサービス、制度だろう。
 
 プッシュ通知の仕組みも整えているようだが、プッシュ通知よりももう一歩踏み込んだ「助け」が必要だ。「一応、お知らせはしましたからね。後はあなた自身の努力次第ですよ。このサービスを使いたければ申請してくださいね」と言うのではあまりに冷たすぎる。
 
 

2. (カード)所持認証主義からの脱却

 生体認証などを取り入れることで、物理カードの所持認証から脱却しよう。カードの所持認証に頼っていると、「カードも何もかも流されてしまいました」という人を助けることができない。
 

3. 国際標準を目指す

 せっかく作るのだったら国際標準を目指そう。今は「日本仕様」でも事足りるかもしれないが、早晩、海外の類似制度との兼ね合いが問題になってくるだろう。例えばIDの問題は世界の共通仕様を求められるはずだ。今の人は世界中を移動する。IDとは個人特定なのだから、その人が移動するたびにその都度、国によってIDが変わって追っかけられないようでは意味がない。
 

「何を為すべきか」の発想から

 以上、3つの提言を上げてみたが、私が一番主張したいのは、一番目の申請主義の問題だ。
 
 ニーズから出発すると、「便利」や「効率」ばかりを優先させたつまらない形に陥ってしまう。「何を為すべきか」という発想からスタートするべきだ。そうすればデジタル・ガバメントはより良いものになるだろう。
 
 
(参考:デジタル・ガバメント実行計画)