漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

「給付金が遅延したのはマイナンバー制度に反対した人たちのせい」という国民の勘違い

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 全国民一律の10万円の給付金。この給付金支給の遅延が全国の自治体で相次いでいる。特にマイナンバーカードを使ったオンライン申請は、申請の内容に不備が多かったり、全国の市役所が申請内容と住民基本台帳の内容を目視確認したりするのに時間を取られて「紙で申請した方が早いです」と市民に呼びかける始末になっている。あまりの混乱ぶりにオンライン申請を中止した自治体もある。
 
 このニュースに対してネット上などでよく目にするのが「国民がさんざんマイナンバー制度に反対したせいだ」という意見。与党でもマイナンバーと銀行の預貯金口座の紐付けを義務化しようと言い出す人が出てきた。
 
 だが、この「マイナンバー制度に反対した人たちのせいだ」というのは大なる勘違いなのである。ここに、国民が無知蒙昧であることをいいことに、政府が好き勝手に進めようとしている構図がある。
 
 例えばNHKのこのニュース。前段と後段では違う話をしているのだが、一つのニュース記事として扱うことで、まるで一連なりの話のように見える。
 
 前段で語られているのは、地方自治体が今回寄せられた口座情報を保持して次回以降に使えるようにしましょう、という話である。で、その話に関係があるかのように、しれっとマイナンバーに口座情報を紐付けましょう、という話が出ている。
 
 このニュースに対して、「賛成だ。便利になるのならそうしてくれる方がありがたい」、「マイナンバーと口座情報の紐付けに反対している人は何か疚しいことでもあるのかな?」と言っているコメントも多く見かける。
 
 だが、便利になんかなりはしない。マイナンバーが私たち国民にとって便利なものになるかどうかは、政府の運用(使い方)次第なのである。
 
 「反対派が個人情報の漏洩、プライバシーが心配だと声高に反対したせいで、マイナンバーはセキュリティーがガチガチになってとても使いづらいものになってしまった。だから給付金の支給もスムーズに行かなかったのだ」と言ってる人がたくさんいる。マイナンバーのセキュリティーがかなり堅く作られているのは確かだが、給付金の支給がスムーズに行かなかったこととは関係ない。なぜなら、特別定額給付金の支給にマイナンバーは一切使われなかったのだから。給付金の支給に使われたのはマイナンバーカードであってマイナンバーではない。このことは以前の記事でも書いたので参照されたい。(一律10万円の特別定額給付金にはマイナンバーは使われない - 漸近龍吟録
 
 
 あるいはこの毎日新聞の記事。「マイナンバーが機能しなかった」と書いているが、機能しなかったも何も、使っていないのである。つまり、「マイナンバーが使いづらいものだったから支給がスムーズに行かなかった」のではない。そもそも政府はマイナンバーを使っていなかった。
 
 「だから使いづらいものになってしまっていたから政府は使わなかったんでしょう?」と思う人もいるかもしれないが、それも違う。現行の仕組みでも充分、マイナンバーは「使える」のである。現行の仕組みでもマイナンバーを使ってスムーズに支給をすることは可能である。それを使わなかったのは、単に政府が「やる気がないから」に過ぎない。
 
 「マイナンバーが銀行口座と紐付いていればもっとスムーズに支給できたのに」と言っている人が多くて驚く。「いれば」ではない。マイナンバーと銀行口座はとっくの昔に紐付いているのである。国税通則法などの法律によって、2018年1月からマイナンバーと銀行口座は紐付いている。
 
①大勢の国民がマイナンバーに反対した
 ↓
マイナンバーが銀行口座と紐付かなかった
 ↓
③給付金の支給がスムーズに行かなかった
 
と勘違いしている国民がいかに多いか。①の大勢の国民が反対したというのはその通り。②のマイナンバーが銀行口座と紐付いていないというのは間違い。③の給付金の支給に関しては、マイナンバーを使えばスムーズに支給できたのに政府が単にマイナンバーを使わなかっただけ。
 
 マイナンバーカードがずっこけて、マイナンバーをどうにかしましょう、と言うのは、犬が転んだから兎を治療しましょうと言ってるようなもの。国民が無知すぎるのでこんな簡単なトリックにも騙される。
 
 このブログでも再三にわたって書いているが、マイナンバーの利用目的は1.税、2.社会保障、3.災害対策の三つだけなのである。通称番号法という法律で決まっている。COVID-19は災害であり、特別定額給付金社会保障であり、マイナンバーの利用目的のど真ん中なのである。いくらセキュリティーがガチガチになろうとも給付金の支給にマイナンバーが使えないわけはないのである。
 
 ではなぜ使わないのか、と言ったら、それはもう政府がマイナンバーを国民のために使う気がないからである。2016年にマイナンバー制度が始まって以来、この四年間でたくさんの災害が日本を襲った。だが政府は一度もマイナンバーを使わなかった。「災害対策」とあれだけ大々的に謳っていたのに。
 
 いま多くの国民が「便利になるんならマイナンバーと銀行口座の紐付け義務化に賛成」と言っている。便利とは私たち国民にとって便利という意味であろう。今まで一度もマイナンバーを国民のために使ってこなかった政府が、これから国民の便利のためにマイナンバーを使うと思うのか。「便利になるんなら」と思ってせっせと銀行にマイナンバーを届け出た暁には、政府が「国民の皆さま、ありがとうございます。これで出揃いました。皆さまのマイナンバーはしっかり脱税監視に使わせていただきます」という言葉が待っているだけ。「脱税監視だけでもいい」と言う人はいいが、「少しは便利になるかも」などとは努々思わない方がいい。
 
 今回の給付金騒動でも少し分かった人もいるかもしれないが、マイナンバーというのは行政機関間の情報連携に使われなければ意味はない。そこで使われなければスマートで便利な社会というのは実現しない。国が国民の預貯金口座を把握したところで日本のIT化だの便利化だのはやって来ない。
 
 次回の記事では、銀行口座とマイナンバーの紐付けについて、もう少し詳しく書こうと思う。
 
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