漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

ゴーン出国事件に見る日本の2つの病理

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 2019年大晦日カルロス・ゴーン被告(以下、ゴーン)が日本を出国してレバノンにいる、というニュースがあった。
 
 この事件を受けて、NHKがゴーンの弁護を担当する弘中弁護士にインタビューしたニュ―ス。ゴーン被告の弁護士が取材に応じる「寝耳に水でびっくり」 | NHKニュース
 
 このニュースに対して、NewsPicksで肩書きが「弁護士」となっている人たちによる同業者擁護の意見の数々。
 
「当然だろう。一私人たる弁護士がゴーンの逃亡を完全に防ぐことは不可能である。」
「事前に知らされていた筈がないです。」
「弘中弁護士が知っているはずがないです。」
「当然、知らないでしょう。せっかく勝ち取った保釈だったのに、海外逃亡をされるというのは弁護士にとって裏切られたようなものですから。私には幸いにして経験がありませんが、保釈中の被告人に逃げられて「メンツ丸つぶれになった」と嘆いていた弁護士が何人かいました。」
 
 知っていたか知らなかったか、が問題なのではない。コメントを求められて「寝耳に水でびっくりした」などという、そこら辺の通りすがりの一般人のようなコメントをしていることが問題なのである。そこら辺を歩いている一般人に「ゴーンがレバノンに出国したそうですけどどう思いますか?」とインタビューしたら、「びっくりした」「驚いた」と皆言うだろう。
 
 責任の一端がある関係者でありながら、そこら辺の一般人のようなコメント。またその酷いコメントに対する同業者たちのこれまた酷い擁護コメントの数々。「裏切られた」とか、急に被害者のような物言い。
 
 弁護士たちは一体何のために仕事をしているのだろう。「メンツ丸つぶれ」。ああ。言っちゃった。正直と言うのか何と言うか。この人たちは自分のメンツのために仕事をしているのか。そこら辺の一般人と同じことしか言えないなら弁護士の資格を返上したらどうか。
 
 法律家たちは、何か出来事に対してコメントを求められた時に「罪に問われる可能性があります」とよく言う。私はそれを聞くたびに何とつまらない戯言だろうと思う。罪に問われたら何なのだ。罪に問われようが、それは罰を伴う、ということとセットになっていなければ意味はない。罰が伴わないのであれば、法を踏み倒す方法があるのであれば、人は法律を無視するだろう。ゴーンにとっては端金のたった15億円だかの金を払えば堂々と逃げさせてもらえるのなら逃げるだろう。
 
 また、これは、12月31日昼頃の第一報に近いニュースで、NHKが“関係者”たちにコメントを取って回ったもの。ゴーン被告 出国か “レバノン到着”報道 保釈条件は渡航禁止 | NHKニュース
 
弁護団「何も知らない」
検察幹部「把握していない」
法務省幹部「確認中」
外務省幹部「把握していない」
日産幹部「驚いた」
 
 見事なまでの、把握していない、驚いた、のオンパレード。これが日本の無限無責任の体系。
 
 NewsPicksに集まっている弁護士たちもおそらく勘違いをしている。「本当は知ってるのに知らないって嘘ついてるんじゃないですか?」と問われていると思っているのだろうか。だから仲間たちまで集まって「本当に何も知らないんだって!」と言っているのか。そうではなくて、「把握しているべき立場なのに『何も知らない』では駄目なんじゃないですか?」ということが問われているのだ。それが解っていないから上記のようなコメントになってしまう。
 
 通りすがりの一般人でも、「ゴーンがどうやって出国したかご存知ですか?」とインタビューされたら「知らない(把握していない)」と言うだろう。
 
 すべての人、機関が、「自分の仕事の範囲はここまで。その先は知ったこっちゃない」という態度である。だからこういう事態が起こっても、みな他人事であり、誰も責任を取ろうとしない。真っ先に「知らない」「聞いてない」と言うことで自分のところに責任が降りかかってこないようにすることを第一に考える。と言うか、それしか考えていない。
 
 この無限無責任の体系が日本の第一の病理。
 
 二つ目は、「長い物には巻かれろ」という諺に表される「弱きに厳しく、強きに甘い」という国民性。
 
 先日の熊澤蕃山の記事でも書いたが、生活保護を受給しているような貧しい人たちに対しては「生活保護なめんな」と言うくせに、相手がゴーンのようなVIPになると途端に何も言わなくなる。ネットでこの事件に対するコメントをいろいろ見てみたが、「映画化決定*1」「何か面白そうなことになってきたな」などと茶化すのが精一杯で、誰も「日本の法律なめんな」とは言わない。こういう時こそ「日本の法律なめんな」というジャンパーを作ってみんなで着たらどうですかね、日本のお役人さんたち。
 
 紛争や貧困に苦しむ外国人が入国しようとして来ることに対しては「不法入国だ」と言ってあんなに厳しく取り締まるくせに、相手がVIPだったら堂々と空港から飛び立たせてあげる。
 
 どこまでも無責任な態度と、強い者に対するほど寛大になる姿勢。この2つの病理を治していかないかぎり、日本の病はますます深刻になるばかりだ。

*1:映画化なんて茶化される前にゴーン側が準備している。