漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

リニア中央新幹線が開通した暁に起こること

 
 リニア中央新幹線建設推進派の言い分の一つとして、「バックアップ」がある。東京と大阪という日本の二大都市を結ぶ線がもう一本できることは日本を強靭にする、という主張である。東海道新幹線にもしものことがあったときにリニア中央新幹線を使うことができる。逆も然り。そしてまた、線が二本になることで、東海道新幹線の混雑緩和にも繋がる、と。
 
 しかしリニア中央新幹線が開業した暁には、これらの建前はなし崩しに消えていく。
 
 「コスト教」「効率教」と言ってもいいぐらいコストと効率のことばかり考えている日本では、建前は崩れ去る。
 
 JR「今後、東海道新幹線は漸次、縮小していきたいと思います。約束が違う?私たちもボランティアじゃないんで。ビジネスなんで。二本の線を走らせているとランニングコストは二倍かかります。リニアの開業以降、お客様は速い方(リニア)にお乗りになる方がほとんどで、東海道新幹線の乗客は年々減少傾向にあり、経営を圧迫しています。また、東海道新幹線は開業から数十年を経過し老朽化も目立ちます。使われているシステムや部品は現代の基準では古い物が多く、同じメンテナンスでもリニアの何倍もの維持費がかかっているのです。こうした状況を踏まえ、東海道新幹線は今後、段階的に便数を減らしていくことといたしました。最終的に廃線とするかどうかはまだ決めていませんが、これからはリニア中央新幹線の増便を図るなどしてより一層のお客様の利便性向上に注力してまいりたいと思います。」
 
 それに対して、日本国民が「しょうがない」「しかたない」と言う未来まで見える。
 
 日本人の得手不得手がある。日本人は国家百年の計とかグランドデザインとか大きなことを考えるのが苦手である。一方で部分的な細かな効率化とか小さな改善を考えるのは得意である。日頃からコストと効率のことしか考えていないので、コスト削減、効率化の観点からJRの言い分を聞いて「なるほど尤もなことだ」と思ってしまう。二本の線を同時に運用し続けるのはコストがかかるし効率も悪い。人口減少で働き手不足の時代なのだから、少ないリソースを一本化した対象に集中的に投下したほうが効率がよい、と言い出す。
 
 斯くして、東海道新幹線の混雑緩和だとか、東京大阪間という日本の大動脈のバックアップだとかいう「建前」は消え去ってしまう。リニア中央新幹線建設反対派は、推進派に対して「そんなのは美辞麗句で飾った建前だ」と言うが、推進派はその建前すら維持できない。
 
 私がリニア中央新幹線建設に反対するのは、日本という我が社稷を強靭にするという考え方に反対だからではなく、寧ろその理想が実現されないだろうことを危惧するからである。