漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

デジタル化とは何か

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 最近の政府のデジタル化に関する施策を見ていると、「デジタル化」を勘違っているのではないか、デジタル化とは何かということが解っていないのではないか、と心配になる。
 
 政府が今進めている「デジタルガバメント実行計画」。私は当初、この計画に賛成だった。特に横の連携を重視する「コネクテッドワンストップ」の理念に大きく共感していた。
 
 今でも、
 
1. デジタルファースト
2. ワンスオンリー
3. コネクテッドワンストップ
 
の三原則の内、2番と3番に関しては賛成である。
 
 だが。1番の「デジタルファースト」が気になる。
 
 政府の人間は「今どき紙なんてもう古い。これからはデジタルの時代です」と言って、あらゆる手続きを紙からデジタルに移行しようとしている。もし「デジタルファースト」の意味が「紙からデジタルへの移行」を意味しているのなら、私はこの計画には反対である。
 
 「デジタル化」とは、当然にデジタルでもできなければいけない手続きをデジタルでもできるようにすること、である。
 
 紙をなくすことには大きく二つの害がある。
 
一つは、デジタル機器の操作が苦手な高齢者が困ること
二つは、ネットの大規模障害があった時の代替手段がなくなること
 
である。
 
 世の中にはパソコンやスマホの操作が苦手な高齢者がいっぱいいる。これを「老害」と言って切り捨ててはいけない。
 
 また、インターネットの大規模通信障害や大規模停電といったことは過去にも起こっていることである。そうした非常時にも手続きができるよう、紙の手続きは残さなければならない。
 
 これはちょうどかつて「バックアップ」を誤解していた人たちに似ている。
 
 昔はパソコンがよく壊れた。それでパソコンの中に保存していた写真などのデータが取り出せなくなることがよくあり、「バックアップ」の重要性が言われた。その時にパソコンの中のデータを外付けハードディスクなどに移して、「バックアップした」と言っている人がたくさんいた。バックアップとは、カット&ペーストではなく、コピー&ペーストである。「移行する」のではなく、同じデータを二つ以上の場所に同時に保存しておくことである。
 
 それと同じような誤ちを政府は繰り返そうとしている。
 
 デジタル化推進担当には、政府内でもITに詳しいデジタル好きな人が選ばれるのだろう。そういう人に任せると、「紙なんて今どき古いから、ぜんぶデジタル化しましょう」と言って、紙を廃止する方向に持って行く。
 
 今の人は、すぐに「コスパ」、「効率化」と言う。たしかにデジタルと紙の並立はコストがかかる。効率も悪いかもしれない。だが、コストがかかっても、やらなければいけないことはやらなければいけないのである。
 
 デジタル化はそれが「便利」だから進めるのではない。当然にやらなければいけないことだからやるのである。
 
 今、日本の会社内では、ほとんどの手続きがデジタル化されている。ところが役所だけが、平日の日中に(!)役所まで足を運んで何枚もの紙の申請用紙に記入しなければ手続きをしない、と言って、会社勤めの人たちを徒に苦しめている。
 
 ヨーロッパのいくつかの国ではとっくにデジタル化(手続きのオンライン化)がなされており、技術的に決してできないという話ではない。
 
 デジタルの手続きと紙の手続きは両方なければいけない。「デジタル化」ということをなんとなく「紙からデジタルに移行すること」と捉えていたら、大きく道を誤る。
 
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