「東京」オリンピックとは何か 〜東京オリンピックはどこで開催されるオリンピックか〜
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「東京」オリンピックとは何か。
ずっと疑問だった。長年、疑問だったが、ネットで検索してもどこにも答えらしきものは見つからず、それどころか、そういう疑問を発している人もいなかった。
日本で前回、開かれたオリンピックは1998年冬季長野オリンピックである。また、実現はしなかったが2008年のオリンピックを大阪で、2016年のオリンピックを福岡で誘致していたこともあった。もし誘致が実現していれば「大阪オリンピック」「福岡オリンピック」があった。
東京オリンピックは東京都が、
長野オリンピックは長野県が、
大阪オリンピックは大阪府が、
福岡オリンピックは福岡県が、
それぞれ開催するオリンピックで何も疑問は無いじゃないか、と思うかもしれない。
しかし、長野オリンピックの一つ前に日本で開かれたオリンピックは1972年の冬季札幌オリンピック。ここまでずっと都道府県が並んできたのに、なぜいきなり「札幌」という「市」がオリンピック名になっているのか。「北海道オリンピック」ではないのか?「北海道はさすがに大きすぎるから札幌市という市が立候補したのでは?」と思う人もいるかもしれないが、そうではない。
実は、長野オリンピックは「長野県」ではなく「長野市」が開催したオリンピックだった。そして、大阪オリンピックは「大阪府」ではなく「大阪市」が、福岡オリンピックは「福岡県」ではなく「福岡市」が誘致していたオリンピックだった。長野や大阪や福岡は、たまたま府県名と府県庁所在地の市名が同じだから、県が開催しているのか市が開催しているのかが分かりにくいのだ。
1988年の夏季オリンピックには「名古屋オリンピック」誘致活動があった。ここまで来ればはっきり分かる。札幌も名古屋も長野も大阪も福岡も、すべて「市」が開催(を目指)した大会だったのだ。
「東京」だけが異質なのだと気付く。札幌、名古屋、長野、大阪、福岡はすべて「市区町村」単位の誘致・開催なのに、東京だけが「都道府県」単位である。単位が異なっているのである。「東京オリンピック2020」は、誘致を言い始めたのは石原都知事、IOC総会で「TOKYO」が選ばれて万歳していたのは猪瀬都知事、今は小池都知事が、前面に出てきてオリンピックに関する活動をしている。オリンピックが開催されれば都知事は開会式や閉会式にも出てくることだろう。
札幌オリンピックや長野オリンピックでは、式典に出てくるのは札幌市長、長野市長であって、北海道知事、長野県知事ではない。なぜ、東京オリンピックだけが都知事が出てくるのか。東京オリンピックは「東京都オリンピック」なのか?
過去に開催された、あるいは誘致計画があった、他のすべてのオリンピックが「市」単位のオリンピックなのに、東京オリンピックだけが「都道府県」単位のオリンピックなのはなぜなのか?都道府県単位にならうなら、札幌オリンピックは「北海道オリンピック」、名古屋オリンピックは「愛知オリンピック」でなければおかしい。逆に市単位にならうなら、東京都の場合だったら、三鷹市が開催する「三鷹オリンピック」とか、八王子市が開催する「八王子オリンピック」のようでなければおかしい。
本当に「東京」オリンピックではなく、「東京都」オリンピックなのか?開催都市契約では、”THE CITY OF TOKYO”、直訳すると「東京という都市」となっている。しかし和訳版では「東京都」となっている。そしてそれを「開催都市」と呼んでいる。
「東京都」ではなく単に「東京」と言った場合には東京23区のことを指す場合がある。東京の区は特別区と言って23区を一つの「市」のようなものとして見做すことがある。例えば次のようなランキングを見たことがあるだろう。
1位. 東京 約951万人
2位. 横浜 約373万人
3位. 大阪 約272万人
4位. 名古屋 約231万人
5位. 札幌 約195万人
6位. 福岡 約157万人
これは全国の市の人口ランキングである。2位以下が「市」の人口なのに1位だけ「都」のわけがない。ここで言う「東京」とは23区の人口を表している。
つまり、東京オリンピック2020は「東京23区オリンピック」であると考えることもできる。23区の「市長」に当たる存在がいないから、代わりに東京都知事が「東京市長」として東京23区にオリンピックを誘致した、と。「東京オリンピック」とは「東京市」で開催される「東京市オリンピック」である、と。
現在は「東京市」という市は無い。戦前は「東京市」という市があった。それは15区から始まった。今の千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、台東区、江東区あたりである。そこから段々地域が拡大して行き最終的に23区になって「東京市」は無くなった。だが今でも23区は嘗ての東京市の名残りであり最終型である。
東京オリンピック2020の会場は分散している。
大抵の競技は国立競技場周辺か東京湾岸周辺で行われる。だが、テコンドーやレスリングは千葉市で、バスケットボールや射撃、ゴルフは埼玉県で、自転車は静岡県で、野球・ソフトボールは横浜市や福島市で行われる予定になっている。
オリンピック憲章では「すべての競技の試合および開会式と閉会式は、原則としてオリンピック競技大会の開催都市で実施されるものとする」と決まっている。ただし例外が認められる、と書いてある。東京大会は随分と例外の多い大会である。そして最も遠いものは、サッカー、マラソン、競歩が札幌市で行われる。しかし、「東京市オリンピック」ならば、こうした他道県の会場だけではなく、東京都調布市が会場になっているサッカーやバドミントンだって「東京(市)」以外の地域で行われる競技ということになる。
だが仮に、この「東京市オリンピック」という考え方にしたとしても、開催する主体は「東京都」である。
東京は一つ一つの区、市単位でも人口規模や財政規模が大きいが、「東京都」となるとずっと大きい。東京都と言うときは西の奥多摩の山々や太平洋上の遠い島嶼部まで含み、その地域は広大で人口も財政規模も巨大になる。
東京都 vs. 福岡市
だったということだ。
東京「都」 vs. 福岡「県」ですら東京都の方があらゆる面で規模が上なのに、東京「都」と福岡「市」の争いだったら、これは大人と子どもの闘いのようなものだ。この時、「福岡市の財政は大丈夫なのか」と福岡市の財政状況を心配する声が出た。「市」と「都」の財政規模は当然大きく違う。国内誘致合戦の段階で「市」と「都」が争うという不公平について議論がなければおかしいではないか。
私は「東京都オリンピック」であることが不服なわけではない。そうではなくて、「市」と「都」と単位が違うこと、「札幌オリンピック」と「東京オリンピック」の単位が異っていることに、どうして誰も疑問の声を上げないのか。それが信じられないのだ。
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