漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

「チコちゃんに叱られる」とはどういうことか

 NHKの『チコちゃんに叱られる!』という番組がある。
 
 いわゆる雑学的知識や豆知識、薀蓄を紹介する番組だが、諸説ある中の一つの説を「○○だから。」と断定調で説明してしまうことに対して批判がある。
 
 だがそれよりも私は、こうした単なる雑学知識で視聴率を稼ぐのがいかがなものかと思っている。こういう番組を私は「『へぇ〜』系の番組」と呼んでいる。へぇ〜系で視聴率を稼ぐのは安直である。
 
 私が思う安直な番組作りは、一つは「へぇ〜系」、もう一つは「やってみた系」である。他にも「どっきり」とか「ハプニング集」とか「猫」とか安直なものはいっぱいあるのだが。「へぇ〜」や「やってみた」はたくさんの人が見たがるので簡単に視聴率、アクセス数を稼ぎやすい。
 
 これはテレビ番組に限ったことではない。ユーチューブ然り、本も然り。雑学知識本を出して売り上げを稼ぐ出版社は昔からあるが、安直だと思う。
 
 そして「へぇ〜」と言えば、ある一定の世代より上の人なら昔やっていたある番組を思い出すだろう。今から約20年前にフジテレビ系列で放送されていた『トリビアの泉』という番組である。この番組では、見ている人が思わず「へぇ〜」と言いたくなるような雑学知識や薀蓄が紹介されていた。ちょうど今の「チコちゃん」と同じである。
 
 この『トリビアの泉』の後半に「トリビアの種」というコーナーがあった。まだ「トリビア(雑学知識)」にはなりきっていないが「これをやってみたらどうなるんだろう」という考えを視聴者から募り、それを実際にテレビスタッフが実験してみるというコーナーだった。例えば、電車の吊り革はお相撲さんがぶら下がっても大丈夫と言われているけれどお相撲さん何人分の力に耐えられるのだろう、とか。それでテレビスタッフたちが「実際にやってみた」と言って吊り革にマネキンをたくさんぶら下げて実験し、「こうしてこの世界にまた一つ新たなトリビアが生まれた」となる。
 
 この「トリビアの種」はいわゆる「やってみた系」である。これをこうやってみたらどうなるんだろう、という疑問を人数や財力を使って実験してみる。ユーチューバーなどもよくやっている。この「トリビアの種」の部分を継承しているのが『水ダウ』という番組における「○○説」だ。これは「やってみた」を「○○は○○説」と表現を変えているだけで、実験して確かめるというスタイルは同じだ。トリビアの種に比べて若干下らない内容になっているようだが。
 
 つまり、『トリビアの泉』の前半の「へぇ〜(トリビア)」部分の後継が『チコちゃん』であり、後半の「やってみた(トリビアの種)」部分の後継が『水ダウ』である。と考えると、人気番組二つを合体させた『トリビアの泉』がどれだけ“おばけ番組”であったかがよくわかる。
 
男性のアクセス数を稼ぎたいなら「美女」、
女性のアクセス数を稼ぎたいなら「ダイエット」、
高齢者層なら「健康」、
日本人なら「英語」、あと「猫」、
こういうコンテンツは容易にアクセスを集めることができるだけに、それに頼ってアクセス数(視聴率・売り上げ)を稼ぐのは品のない行動だと感じる。「雑学知識」は「美女」に比べれば多少「お勉強」よりで真面目に見られるのもタチが悪いかもしれない。
 
 諸説あるものを断定調で、という批判もそうだけれど、私はそもそも、雑学知識で視聴率を稼ぐという安直なことを、民放テレビ局ならまだしもNHKがやっているのがいかがなことかと思っている。