漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

年末年始休という謎の休み

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 昔からずっと不思議である。
 
 年末年始はなぜ休みなのか。
 
 年末年始が休みであることに何の疑問も持ってない人は、カレンダーを見てみてほしい。1月1日は赤字で書かれている。だがそれ以外の12月31日や1月2日は黒字で書かれている。(たまたま土曜日だったら青字で書かれていることもある。)
 
 カレンダー通りに過ごすなら、12月31日までは仕事で、1月1日は休み、1月2日からはまた仕事である。なぜなら12月31日や1月2日は平日だからである。1月1日だけは元日(がんじつ。元旦《がんたん》ではない)という祝日なので休み。
 
 年末年始は企業も官公庁も当たり前のように休んでいるが、いったい何の根據があって休んでいるのか。
 
 公務員の場合は、「一般職の職員の勤務時間、休暇に関する法律」という法律があって、その14条で12月29日から1月3日までは休日と定められている。この法律を元に休んでいるわけだ。しかし、この法律は公務員や行政機関にのみ適用される。その他の民間企業、店、病院等は特に決まった法律があるわけではない。そしてこの法律の起源は明治6年に定められた官規である。
 
 ゴールデンウィーク、盆休み、年末年始。大体の日本人にとってまとまった休みは、一年でこの三回だけである。そしてたったのこの三回に皆で一斉に休みを取る。なぜ「いっせーのせ」なのか。
 
 毎年、12月29、30日頃には帰省ラッシュのニュース、1月3日、4日頃にはUターンラッシュのニュース。東京駅で新幹線から降りてきたお父さんがぐったり疲れきった様子で「明日からまた仕事です」とTV局のインタビューに答えている。これで「休んだ」ことになるのか?日本人は渋滞や長蛇の列に並ぶのが趣味なのか?全国で同時期に一斉に休むからこういうことになる。
 
 「実家に帰って正月を迎える準備をしなければ」と言う人もいるかもしれない。私の祖母は伝統的なしきたりや慣習をとても重んじる人で、11月頃から何週間もかけて正月をきちんと迎える準備をしていた。たったの一日や二日で何が準備できると言うのか。
 
 「せめて三が日ぐらいまでは正月気分でいたい」と言う人がいるかもしれない。だが、それもおかしいのである。今のお年寄りたちに話を聞くと、昔は1月20日くらいまでは正月気分で、会社に行っても働いているような働いていないような、という雰囲気で、20日を過ぎた頃くらいから徐々に元通り真面目に働き出す、という会社が多かったらしい。それは会社だけではなく店も同じで半分休業半分営業という雰囲気が世の中全体にあったと言う。つまり、昔はもっと「正月」というものは長かったのに、段々と短くなっていって、今では1月2日にはもうすでに正月気分はない。
 
 「正月」は昭和の頃に比べてどんどん短くなり、ほんの数日にぎゅっと圧縮され、その僅かな間に慌てて帰省し慌てて戻る。休み中は子ども相手と渋滞ラッシュでくたびれ果て、次の日からすぐ仕事。
 
 こんな「苦行年中行事」は改めるべきだ。
 
 「盆と正月」とよく言うが、「盆休み」の方はとっくに無くなっている。まず「盆休み」という言葉がない。大抵の企業では「夏期休暇」と言っている。そしてその夏期休暇も一昔前は8月13日〜15日頃に固定している企業が多かったが、今は好きな時に取得するよう設定している企業が多い。秋や年が開けてから「夏休み」を取る人も珍しくない。
 
 盆休みもなくなったのに、なぜ年末年始休だけが“当然のように”残っているのか。
 
 年末に関しては、「年の変わり目でいろいろと改める時期だから」と言う人もいるだろう。もっと昔は年末は「大祓(おおはらえ)」と言った。いろいろなものをはらって改めるのである。この大祓には6月末の「夏越し(なごし)の祓」と12月末の「年越しの祓」があった。
 
 実際、明治時代には6月末の数日間と12月末の数日間を連休にしましょう、という案が出された。6月末連休法案は結局申請されなかったが、こういう案が提出されるということ自体、当時の人が「6月末が連休でもおかしくない」という感覚を持っていたことが分かる。しかし、もし現代において「6月末を連休にしましょう」と言ったら皆「なんで?」と思うだろう。だが年末年始の方には「なんで?」とは言わない。人間は愚かなもので、自分が生まれた時から、あるいは生まれる前からあるものについては、それを「普通」だと思って疑うことができない。
 
 時代に合っていない旧い法律を改めて公務員は年末年始も働くようにした方がいい。もともと法律に縛られていない民間企業は率先して年末年始も働こう。
 
 あと、「年末年始まで働けと言うのか!鬼!」と言う人は、年末年始に電車に乗って初詣に行くべきではない。鉄道会社の人がかわいそうだろう。あなたみたいな人のせいで鉄道会社の人は年末年始まで出勤させられているのだ。年末年始にインターネットも使うべきではない。インターネットプロバイダー会社の人がかわいそうだろう。
 
 昭和の頃に年末年始が休みだったのは、その後1月20日過ぎまでなんとなくダラダラ休める、ということがセットとしてあった。だが今はもうとっくにそんな雰囲気は無い。それなのに年末年始休という旧習だけが残っているのは徒に日本国民を苦しめているだけだ。
 
 繰り返しになるが、私は「休むな」と言っているのではない。もっと国民全員が銘々に好きな時に休むべきなのだ。 
 
 普段、「伝統なんて要らない。時代とともに新しく変えていくべき」と言う人たちも、なぜか年末年始休に関しては明治6年の法律に何も言わず則っている。明治初期の常識で決めたことを150年近くも信奉して変えずにいるのは信じられないことだ。
 
 公務員の法律を改めよう。年末年始は休みではないようにしよう。そして、「なんとなく習慣だから」で年末年始を休みにしている会社や店も、在り方を見直すべきである。