漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

マイナンバーカードの画像ファイルをアップロードして送信、の滑稽さ

 

 先日、国会図書館の利用者登録をオンラインでやろうとしたところ、本人確認書類の中にマイナンバーカードが入っていてずっこけそうになった。
 
 マイナンバーカード自体は立派な本人確認書類だ。問題はその使い方だ。マイナンバーカードの写真を撮ってその画像ファイルをアップロードしてフォームから送信するようにとのことだった。マイナンバーカード以外に本人確認書類として使えるものとして、運転免許証やパスポート等が上げられていた。
 
 こういう形で本人確認を求めているサイトは多い。国会図書館だけが特別ではない。多くのサイトでこのようなおかしな仕様を見かける。そしてこれのどこが可笑しいのか、どれだけ滑稽なことなのかを分かっていない人も多い。
 
 マイナンバーカードの中にはICチップが入っている。そしてICチップの中には電子証明書が入っている。この電子証明書こそ本人確認書類である。この電子証明書を使った本人確認こそマイナンバーカードの本来の用途(の一つ)である。
 
 未だに多くのサイトでマイナンバーカードの画像をアップロードして添付して送るよう求めている。厳格な本人確認を求めるところでは新しく口座を開設するときは、顔写真の付いたカードを手に持って自撮りした写真を送ってくるよう求めているところもある。多くの人が経験あるのではないだろうか。
 
 こうした手続きをしなくて済むようにしたのがマイナンバーカードである。わざわざカードの写真を撮らなくても、わざわざ写真をPCに取り込まなくても、わざわざ画像ファイルをアップロードしなくても、よいようにしたのがマイナンバーカードである。マイナンバーカードはカードリーダーにタッチしてパスワードを入力すればそれで終わり。それで厳重な本人確認をクリアしたことになる。
 
 先日、知人の高齢男性がメールで送られて来た添付ファイルを開けないことを先方に連絡したら、先方の人が「では添付ファイルの中身を紙に印刷して郵送します」と言ってきたことがあった。この話は受け手も送り手も高齢者。おたがいにファイル形式などの難しい話はわからないのでそうなったのだが、若い人の大半はこの話を聞いて笑うだろう。だが自分たちが今やっている「マイナンバーカードの表面を撮影してその画像ファイルをアップロードして送信」が、それと同じくらい滑稽な行為であることには気づいていない。10年後、20年後の人に笑われるような話であることを解っていない。
 
 なぜ、こんなおかしなことになってしまうのかを考えてみたが、やはり、日本人は「電子証明書」を知らない、聞いたことはあってもどういう時に使うかのイメージを摑めていないということと、「対面式」手続きのイメージから抜け出せていない、ということが原因になっていると思う。
 
 最近は銀行で新しく口座を開設したり携帯電話を新しく契約する時に店舗に出向く人は減っていると思う。そういった手続きはすべてオンラインで行う。実際、銀行の支店や携帯電話ショップは数を減らしている。しかし店頭での手続きのイメージが未だに残り続けている。
 
 いま多くの日本人が、マイナンバーカードを運転免許証のように対面で使う物だと思っている。窓口で「今日は何か本人確認できるものはお持ちですか?」と聞かれて、「はい、持って来ましたよ、マイナンバーカード」と言って財布の中から取り出すような、そういう使い方をイメージしている。マイナンバーカードはそういう使い方“も”できるが、主たる使い方ではない。このブログでも再三にわたって書いているが、マイナンバーカードはオンラインで使うことを主たる目的として作られた。
 
 「マイナンバーカードの画像ファイルをアップロードして送信」は、その「対面式」の発想の延長なのだ。対面式本人確認においては、窓口の係の人が、差し出されたカードに貼られている顔写真と、目の前にいる人の顔が同じであるかどうかを睨めっこして判断する。画像ファイル送信方式も、送られてきた側はパソコンの前に座って、画像ファイルに写っているカードに記載されている名前や住所が、送信者が送信フォームに記入した名前や住所と一致しているかどうかを目で見て判断している。
 
 「パソコンを使っているのだからデジタル化だ」と思っているのかもしれないが、こんなのはデジタル化とは言わない。日本人はどうも紙をパソコンに置き換えただけで「デジタル化した」ことになっていると思っている人が多すぎる。カードの写真をスマホのカメラで撮ってデジタル画像にし、それをインターネットで送信しているのだからデジタルじゃないか、と思っているのかもしれない。しかしそれは「エセ・デジタル化」だ。
 
 日本国民はいつになったら電子証明書というものを理解するのだろう。マイナンバーカードの中には利用者証明用電子証明書と署名用電子証明書という二つもの立派な電子証明書が入っている。電子証明書は本人確認を行うために入っているのであり、オンライン本人確認はマイナンバーカードの最も主たる用途の一つである。その機能を使わないでカードの表面を写真に撮って送ってくださいと言うのは、メールアドレスを葉書に書いて送ってくださいと言っているようなものだ。
 
 「私はカードリーダーを持っていません」、「申請のためにわざわざカードリーダーを購入したくない」。そういう人はスマホで読み取ることもできる。マイナンバーカードに対応したスマホを持っていない人は郵送で手続きすることもできる。国会図書館は郵送という古い手続き方法を用意してくれている。そしてもっと古い「直接来館」という手続き方法まで用意してくれている。これは素晴らしい。私は「古い手続き方法はやめて最新の手続き方法にするべきだ」と言うのではない。マイナンバーカードはちゃんと“正しく”使うべきだと言っているだけだ。
 
 マイナンバーカードによるeKYCを使っていないサイトはたくさんある。それなのになぜ国会図書館を殊更に取り上げて批判するのかって?それは「国立」だからだ。国の施設ならマイナンバーカードを正しく使ってほしい。
 
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