漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

世代間論争が不毛であるかどうかを語る前に確認しておきたいこと

René Schaubhutによる画像
 
 「世代間格差を論じるのは不毛だ」と言う意見をネットでよく見かける。「いたずらに世代間対立を煽るな」と言う。
 
 それに対して、「いやいや、世代間格差は確かに存在しているだろう。無視してはいけない」と言う人もいる。
 
 この両者ははじめから話が噛み合っていない。それは「世代」という言葉から想像しているものが異なっているから、言い換えれば、「世代」という言葉の定義がきちんとできていないからである。
 
 

テンポラリーな「世代」とパーマネントな「世代」

 「世代」という言葉が持つ意味は大きく二つに分けることができる。一つは「テンポラリーな世代」。もう一つは「パーマネントな世代」である。
 
 テンポラリーな「世代」とは一時的な、「今」だけその世代に属している、と言える世代のことである。テンポラリーな「世代」に属する言葉としては次のような言葉たちが挙げられる。
 
・老人世代
・高齢者世代
・中高年世代
・壮年世代
・子育て世代
・若者世代
・乳幼児世代
・70代
・40代
・10代
等々
 
 テンポラリーな「世代」の特徴は、“今は”その世代に属している、ということにある。30年前に「老人世代」と呼ばれていた人たちは今はこの世にはいない。そして今、「老人世代」と呼ばれている人たちは30年前は中年、壮年世代だった。30年前に「若者世代」だった人たちは今は「中年」「壮年」である。テンポラリーな「世代」は、あくまでも“今は”そうだということであって、その言葉が指し示す中身、すなわち構成員は毎年入れ替わっている。5年前に話していた「40代」と今年話している「40代」は、だいぶ顔ぶれが入れ替わっている。
 
 それと対義的なのがパーマネント(永続的)な「世代」である。パーマネントな「世代」は一人の人間に一生、付いてまわる。パーマネントな「世代」に属する言葉としては次のような言葉たちが挙げられる。
 
・戦争世代
・新人類世代
・バブル世代
等々
 
 これらの「世代」は構成員が入れ替わらない。50年前に「団塊の世代」であった人たちは、歳をとった今も「団塊の世代」である。生まれてから死ぬまで「団塊の世代」であり続ける。
 

昔見たNHKの番組で混乱した「40代」

 うろ覚えだが、何年か前にNHKで現代の日本社会の問題点を考える、みたいな番組があっていた。そこで「AIが40代が問題だと言っている」と紹介された。この「40代が問題だ」は二つの意味に取れる。
 
A. 今の40代が問題だ
B. いつの時代も40代が問題だ
 
 私はAの意味に受け取っていた。Aの意味だと10年後は「50代が問題だ」ということになるし20年後は「60代が問題だ」ということになる。しかしその番組に出演していたマツコ・デラックスが「わかる、40代って子育てが一段落して、なんかそういう難しい年頃なのよ」という風な発言をしていて、私は混乱した。マツコはBの意味、すなわちいつの時代にも40代というものは、と受け取っていたわけだ。結局その番組では、AIが言っていた「40代」がどちらの意味なのかは最後まで明かされず、問題の深堀りができないままに終わった。
 

テンポラリーな「世代」とパーマネントな「世代」を混在させた状態で議論を始めることがいちばん不毛

 「世代間格差論争は不毛」、「いたずらに世代間対立を煽るな」と言っている人たちは、おそらくテンポラリーな「世代」を念頭に置いている。例えば「老人世代 vs. 若者世代」という構図をイメージしている。老人世代は「まったく今どきの若者は、」とぼやき、若者たちは「まったく頭の固い老害どもは、」と誹る。しかし、この構図はいつの時代にも繰り返されてきた。今の老人世代の人たちが若者だった頃には、やはり当時の老人たちから「まったく今どきの若者は、」と言われていたのだ。江戸時代の若者も「老人たちは頭が固い、考えが古臭い」と言っていたし、鎌倉時代の老人も「まったく今どきの若者はなっとらん」と言っていた。だから老人世代 vs. 若者世代、みたいな対立に持って行くのは不毛だと言っているのだ。
 
 一方、「世代間格差は確かに存在するだろう」、「無かったことにするな」と主張している人たちは、パーマネントな「世代」を念頭に置いている。日本において「戦争世代」や「氷河期世代」という世代は確かに存在したし、バブル世代と氷河期世代との間に大きな格差が存在するのも事実だ。そして氷河期世代の問題などは今までもこれからも「問題」としていかなければいけないのであって、それを「問題」として語ることはけっして不毛なことではない。
 
 世代間格差論争が「不毛だ」「不毛ではない」の両陣営が噛み合わないのは、最初に「世代」をきちんと定義していないからだ。少なくとも「若者世代」「30代」のようなテンポラリーな言葉を使っているのか、「団塊の世代」「氷河期世代」のようなパーマネントな言葉を念頭に置いて話しているのか、は意識して区別しなければいけない。そこを区別せずに話し始めることがいちばん「不毛」であると思っている。
 
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