漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

颱風後の反応に見る「批判を許さない」日本人の思考体質

f:id:rjutaip:20190914204854j:plainNickyPeによる画像
 
 2019年9月9日に猛烈な勢いを持った颱風15号が関東地方を直撃し、死者こそ出なかったものの、交通機関の大混乱や千葉県での広域停電を齎した。
 
 このことに対するネット上の反応でたくさん見られたのが、「JR東日本東京電力の社員さんたちは懸命に復旧に向けて頑張っておられるのだから文句を言うな」「責めるのはかわいそう」「インフラのありがたみを感じろ」という声だった。
 
 例えばこれは、東電が復旧作業をしているというNHKのニュースに付いていたはてなブックマークの人気コメント。
停電42万戸余 東電 復旧見通しツイッターで順次公表 | NHKニュース

日頃お世話になってるインフラのありがたみを感じるべき場面で、あろう事か逆に復旧の遅れを責めるブコメまで出る始末。馬鹿につける薬はないね。都市の脆弱性より都市に住む人間の脆弱性の問題やで。

2019/09/11 11:32
 
 また、これは、JRの計画運休を「大失敗」と批判した鉄道評論家の冷泉彰彦氏の文章に対して付いたはてなブックマークの人気コメント。
JR「計画運休」の大失敗。台風直撃で露呈した低スキル首都・東京 - まぐまぐニュース!

事故無し&ケガ人も無し。「よくやった」でいいでしょ。

2019/09/11 11:47
JR「計画運休」の大失敗。台風直撃で露呈した低スキル首都・東京 - まぐまぐニュース!

はいはい。12時運行開始予定って案内しておいて、朝8時の時点で安全確認できていたら今度は「4時間も人の時間を奪った。もっと早く再開できたはずなのになぜそんなに待たせたのか!」っていうんだよねわかってる。

2019/09/11 13:09
 
 「JRや東電を批判するな。感謝しろ」と言う人の多さに、私はつくづく日本人には奴隷根性が骨の髄まで浸み込んでいるのだと感じた。
 
 批判はしてよいのである。批判があることで課題が見えてくるし、次回以降のより良い対策へと繋がっていくのである。
 
 「現場で作業に当たっている社員さんたちは睡眠時間たったの5時間で不眠不休で頑張っていらっしゃるんです!」と根性論を語る。
 
 批判というのは「睡眠時間5時間は長すぎる。4時間で対応しろ!」ということではない。一生懸命頑張っていらっしゃるんだから批判するな、というのは思考停止である。こういう日本人の思考体質は戦前から変わっていない。
 
「現場の兵隊さんたちは命がけで頑張っていらっしゃるんです」。
 
「失敗?そう?アメリカと日本の国力の差を考えれば充分頑張ってるほうだと思いますよ。現場では兵隊さんたちが必死で頑張っていらっしゃるのに、こんな時に感謝こそすれ批判なんかするべきではないと思います」。
 
 現代でこそ、戦時中の日本軍の作戦のまずさなどに対していろいろと批判があるが、戦時中は一切そうした批判は封じられていた。国によって封じられていただけでなく、国民自らが封じていた。
 
「なんで、私たちのためにあんなに命をかけて頑張ってくださっている兵隊さんたちに批判を向けるんだ!」            
 
 日本人の思考体質は戦時中からちっとも変わっていない。批判はしていいのである。批判をすることで問題点が見えてきて、「もっといい作戦があるんじゃないか」という風により良い方向に持って行けるのである。
 
「颱風なんだから文句を言ってもしょうがないじゃないか」
「戦時という非常事態なんだから文句を言ってもしょうがないじゃないか」
 
「ちょっとぐらいの、寒いとか暑いとかお腹空いたとか、それぐらいのことで文句を言うな!現場の兵隊さんたちはもっと苛酷な状況で働いてるんだよ!」
 
 流している汗水の量を元に批判してはいけないと言うのは根性論である。戦時中の日本軍は死に向かう間抜けな作戦を、まさに一生懸命汗水垂らして遂行していたのである。
 
 批判を向ける対象の違いというのもあるかもしれない。批判をする人たちはJR東の上層部、東電の上層部、日本軍の上層部、を思い浮かべながら批判をしている。「文句を言うな」と言う人たちは、「現場の作業員」を思い浮かべている。これからは批判をする人たちは、「JR東(上層部)」、「東電(上層部)」などと、いちいち「(上層部)」を付けて批判したらいいかもしれない。
 
 私は、この「批判を許さない」という日本人の思考体質が日本を弱くしていると思っている。戦争に負けるのも然り。サッカーワールドカップでも、監督や選手や戦略のまずさを指摘すると、「日本のチームを批判している反日分子はどこだ」となる。試合に勝ったら「日本は絶対負けるって言ってた奴どこ行った」となる。
 
 だから、日本軍も日本のサッカーもいつまで経っても弱いまま。颱風に対しても弱いまま。「あんなに一生懸命頑張ってくださってるのに、なんで責めるんだ。馬鹿につける薬はないね」と、汗水の量で批判を封じ込めてしまう日本人の思考体質が、日本を弱いままにしてしまっている。
 
 「JRや東電のせいじゃないだろ。颱風のせいだろ」、「颱風は自然のことなんだからしょうがないじゃないか」と言ってる人たちは、颱風は「自然のこと」でも電車の運行や電力の供給は「自然のこと」ではなく「人工のこと」である、ということが解っていない。
 
 より良くするために考えうるべきこともできることもたくさんあるのに、国民がこんな思考では、また次回颱風が来たときも同じように苦しむだけだろう。
 
 
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