漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

「タッチ決済」呼称への違和感 ~接触するのかしないのか~

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 ここ一、二年で「タッチ決済」という言葉を目にする機会が急に増えた。
 
 「タッチ決済」とは何か。
 
 QRコード決済のような読み取り式ではなく、カードやスマホを読み取り機にタッチして決済する方法全般のことを言う。NFCという技術が使われている決済方法なので、まれに「NFC決済」と書かれているのも見る。
 
 中でも特にクレジットカード会社のクレジットカード、デビットカードプリペイドカードなどをタッチして支払う形式のことをタッチ決済と言う。Suica楽天Edyなどは以前からタッチして使うものだが、クレジットカードは従来は「タッチして使う」ものではなかったため、「VISAやMastercardはタッチして使えるんですよ」ということを広く知らせるために普及し始めた言葉だと思う。
 
 だが。私はこの「タッチ決済」という言葉に違和感がある。
 
 この決済方式は「非接触決済」と書かれることもある。私は最初、混乱していた。「touch(タッチ)」という単語を英和辞典で引くと「接触」という意味だとある。「タッチ」と「非接触」は真逆なので、まさか同じことを指しているとは思わなかった。
 
 この非接触決済は、マスターカードは「MasterCard PayPass」、VISAは「VISA Paywave」、JCBは「J/Speedy」という名前でそれぞれ始めていた。が、途中からマスターカードは「Mastercard Contactless」、VISAは「VISA Contactless」、JCBは「JCB Contactless」という名称に変えた。主だったクレジットカード会社がすべて「○○コンタクトレス」という名前に変えた。なので、日本のメディアは、それを直訳して「非接触決済」と言うようになった。
 
 では「タッチ決済」と言い始めたのは誰なのか。誰が一番最初かは分からないが、一番広めようとしているのはVISAではないかと思う。各社のウェブサイトを見るとVISAが一番「タッチ決済」という表現を多用しているからだ。
 
 VISAは英語圏では「Contactless(コンタクトレス)」という言葉を使っているが、日本では「タッチ決済」と言っている。なぜか。
 
 「日本では、コンタクトレンズと似ていて紛らわしいからではないか」と言っている人がいた。それもあるかもしれないが、単に「コンタクトレス」という言葉が長いからではないか。例えば日本人がレジで「(支払いは)マスターカードコンタクトレスで!」とすらすらと言えるとは思えない。
 
 「非接触決済」も堅いし難しすぎる。それで「タッチ決済」という言葉を流行らせようとしているのではないか。
 
 だが、VISAは英語のウェブサイトでは、読み取り機にカードを近づける行為のことを「touch」ではなく「tap」と言っているのである。つまり英語圏では「タッチ」という言葉は出てこない。日本では「タッチ」または「非接触」。
 
 読み取り機に接触しているのかいないのか。
 
 英語の「コンタクトレス」には、従来の磁気カードのように機械の中に差し込んだりスライドさせたりする必要がない→接触させない、という意味合いがあるのだろう。日本は磁気カードのスライドをそこまで経験していない、それでいてSuicaのような電子マネーが普及していた日本では、その行為は接触させているように感じる。
 
 例えば、駅の自動改札でSuicaは読み取り部分に接触させなくてもよい。上空5cmくらいでもちゃんと読み取られるらしい。だが、上空5cmで止めることの方が難しい。大体の人は読み取り部分にSuica接触させている、人によっては叩きつけているだろう。この上空5cmを接触していると見るか、接触していないと見るか。
 
 しかし、クレジットカード会社が世界的に「コンタクトレス」という名称を使っていて、日本のメディアもそれを直訳して「非接触」と伝えている時に、「タッチ決済」と言うのはよくない。仮にメディアで今後「非接触」という言葉の使用頻度を少なくしていくとしても、「コンタクトレス」は大手クレジットカード会社の正式サービス名なので至る処で目にする。そして、いくら日本人が英語が苦手だと言っても、「コンタクトレス」は「コンタクト(接触)」が「レス(ない)」なのだな、ということは分かる。それぐらい分かってしまうから、それが「タッチ決済」と言われると混乱するのだ。
 
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