漸近龍吟録

反便利、反インターネット的

建前すら失った有名無実のマイナンバー

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 2016年に始まったマイナンバー制度。
 
 マイナンバーの利用目的は「税・社会保障・災害対策」の三つ。それ以外のことで使ってはいけない。そう法律で定められている。
 
 この三つの内、税は嫌われもので、社会保障と災害対策は国民にとって嬉しいことだ。「徴税のためにマイナンバーというものを作りました」と言うのでは国民からの反発は必至なので、「社会保障と災害対策にも使います」という建前をくっつけて制度をスタートさせた。
 
 だが、マイナンバー制度が始まった直後に起きた熊本地震ではマイナンバーは使われなかった。災害対策に使われるはずのマイナンバーはまったく使われなかった。そのことは当時、ブログにも書いた。
 
 
 そして今度は、Covid19禍による国民への一律10万円の特別定額給付金の支給にもやはりマイナンバーを使わない、と政府が発表した。給付金は社会保障である。「災害対策」にも「社会保障」にもマイナンバーを使わない。
 
 国民に「マイナンバーは嫌な面ばかりではなくて良い面もありますよ」と言うために用意した「災害対策」にも「社会保障」にも、マイナンバーを使わない。
 
 ここでマイナンバーを正しく使えば、もしかしたら国民にこの先、広く受け入れられたかもしれないのに。こんなことでは国民からの信用を失って、マイナンバーはただ「在るだけのもの」になってしまうだろう。
 
 政府への失望は前からだが、私が今回特に失望しているのは、普段から政府批判を繰り返していた“同志”たちが大人しくなってしまったことだ。「スピード重視なんだから政府のこのやり方でいいと思う」と政府を擁護する者がたくさん現れた。10万円を目の前にした途端、急に矛を収めるとは情けない。
 
 政府は給付金を支給するに当たってにマイナンバーではなくマイナンバーカードを使うと発表した。こんな酷い話があるか。
 
 マイナンバーはマイナンバーカードより圧倒的に速い。「スピード重視なんだから」と言って政府の支給方法を擁護している者たちはそこは無視か?2020年の現時点でのマイナンバーカードの普及率は2割にも満たない。一方のマイナンバーの普及率は約100%。
 
 マイナンバーカードのほうがマイナンバーより速い、と本気で思っているのなら、冷たい水で頭を冷やして来たほうがいい。
 
 こういう時に使わないで何のためのマイナンバーか。
 
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国民への給付金、なぜマイナンバーを使わないのか

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 Covid19禍に伴う国民への給付金の給付方法が発表された。
 
 国民からの申請で、基本は郵送、マイナンバーカードを持っている人はオンラインでも申請できる、という。
 
 この政府の発表に対して、
「何やっても文句を言う人がいるんだな」
「スピード重視と言ってるんだから、準備期間がない中で、この政府の方法は良い落しどころだと思うけど」
と言ってる人もいる。
 
 私はまったくそう思わない。マイナンバー制度およびマイナンバーカードが始まったのは2016年である。準備期間がなかったわけではない。3年以上もの間、いったい何をやっていたのだろう。
 
 なぜ、申請なのか。なぜ、申請なしで給付しないのか。
 
アメリカのように確定申告の口座に入金したらいいのに」
と言ってる人に対して、
「確定申告したことない人もいるんだから」
「子どもは銀行口座持ってないんだから」
と言ってる人もいた。
 
 また、
マイナンバーカードの電子証明書で本人確認をしなければ二重払いの問題などが生じる」
と言ってる人もいた。
 
 だが、それは「申請」という形にしているからそういう問題が生じるのだ。
 
 「申請なしの政府からの支給」という形にすれば、そういう問題は起こらない。確定申告をしたことのない人も子どももマイナンバーは持っている。マイナンバーに基づいて支給すればよい。マイナンバーに基づいていれば、二重支払いの問題も起こらない。
 
「でもマイナンバーは個人に基づいているから、世帯を把握できないでしょう」
 
 世帯は住民票で把握できる。
 
「それだと事務作業が煩雑になりすぎてしまうでしょう」
 
 今の時代は、「◯丁目の◯◯さんのお宅は、先月お子さんが生まれたばかりだったかしらねぇ」と言いながら、手作業で確認するわけではない。住民票のデータはデジタル化されており、マイナンバーから簡単に辿ることができる。そもそもマイナンバーは住基ネットから生まれており、マイナンバーと住民票は元々密接な関係にある。
 
 こんな時にさえマイナンバーを使わない。
 
 こんな時にすらマイナンバーを使わないのなら、マイナンバーなんて無くしてしまえば?
 
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オリンピック延期に伴って生じるオリンピアード問題

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 昨日、日本の首相が「オリンピックを一年程度延期したい」と述べたのに対して、IOCの会長が「100%同意」した、という報道があった。
 
 このニュースを聞いて私が真っ先に思ったのは、「オリンピアードはどうするのか」ということだった。
 
 オリンピアードというのは、4年で1単位になっているオリンピックの暦である。その起源は古代ギリシア古代オリンピックにある。近代オリンピックでは1896年の第1回アテネオリンピックから始まる、4年ごとの暦になる。
 
 1896年から1899年までの4年間が「第1回」。そこから数えて今は2020年から2023年までが第32回オリンピアードとなる。
 
 で、延期になると何が問題かというと、オリンピック憲章では「競技大会はオリンピアードの最初の1年目に開催する」と決められているからである。
 
オリンピック憲章32-1
オリンピアード競技大会オリンピアードの最初の年に開催され、 オリンピック冬季競技大会 はその 3 年目に開催される。
 
 今で言えば、2020年の1月1日から12月31日までに開催しなければいけないことになる。
 
 過去には戦争などの理由で中止になったオリンピックもある。例えば、1940年の幻の東京オリンピックなんかがそうだ。だが、この時もオリンピアードという暦は継続しているので、開かれなかった1940年オリンピックにも「第12回」という「回」は振られている。つまり、中止になったからといって、回数は飛ばされない。
 
 オリンピック憲章のルールに従うなら、第32回東京オリンピックは必ず2020年末までに行わなければならない。
 
 「冬季オリンピックは簡単に開催年が変わったじゃないか」と思う人もいるだろう。今の若い人たちは知らないかもしれないが、昔は夏季オリンピック冬季オリンピックは同じ年に開催されていた。それが、1994年のリレハンメルオリンピックから夏季オリンピックの中間年に開催されるようになった。
 
1992年冬:アルベールビルオリンピック
 
 
 
 
 冬季オリンピックの開催パターンをずらしたのはおそらく盛り上がる年を分散させたい、というような理由からだと思うが、ともかくこんなに“あっさり”伝統を変えることができるのなら、夏季オリンピックだって変えられるだろう、と思うかもしれない。
 
 だが、冬季オリンピック夏季オリンピックは同じオリンピックでも違うのである。英語では夏季オリンピックは「オリンピアード」だが、冬季オリンピックは「オリンピック」である。オリンピアードの概念は夏季オリンピックに適用され、冬季オリンピックには適用されない。冬季は「オリンピック」だから開催年をずらすのは比較的簡単なのである。夏季オリンピック古代オリンピックの伝統を引いているのである。
 
 ちなみに、古代オリンピックオリンピアードの周期と近代オリンピックのオリンピアードの周期は異なる。古代のオリンピアードの4年間は、今のオリンピアードの4年間より、1年後ろにずれている。もう少し細かく言うと、古代オリンピアードは1月1日から12月31日までという数え方ではなく、夏から夏までという数え方だったので、今のオリンピアードとは1年と半年ずれている。
 
 したがって、これをもって、すなわち「古代のオリンピアード(4年単位)の復活」を名目にすれば、東京オリンピックは新しいオリンピアードの単位の元に開催することも可能であるように思われる。古代オリンピアードが現代まで続いているとすると、今は2017年の夏から2021年の夏までの「第699オリンピアード」の中にある。簡単に図にしてみた。
 

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 そして、2021年の夏からは「第700オリンピアード」というとてもキリのいい回数のオリンピアードが始まる。つまり、延期した場合、2021年の春ではなくて、2021年の夏か秋あたりに開催すれば、「(古代の)第700オリンピアード」の最初の年、に開催できることになる。しかし、上述のオリンピック憲章による「オリンピアードの最初の年に競技大会を開催する」のオリンピアードとは、1896年の1月1日から数える「近代のオリンピアード」なので、今のままではやはり憲章に抵触してしまうことになる。一番悪いのは2021年の前半、すなわち春頃に開催する場合で、この場合は近代オリンピアードの最初の年でもないし、古代オリンピアードの最初の年にもならない。
 
 では、この問題をどう解決するかというと、東京オリンピックの延期を年内にする、すなわち、2020年の11月〜12月頃に開催するか、そうでなければ、IOCの委員たちがオリンピック憲章そのものを改定して、「今回だけは例外とする」のような決まりを設けるか、若しくは今度の東京大会から古代オリンピアードの法則に従う、と憲章を変えるか、しかないだろう。
 
 ただし近代オリンピックでもオリンピックイヤーすなわち4で割り切れない年に大会が開かれた例は過去に一度だけある。1904年セントルイス大会と1908年ロンドン大会の間に行われた1906年アテネ大会である。この大会は今では特別な非公式大会という扱いになっている。
 
 なので、2021年に東京オリンピックを開催する場合、近代オリンピアードの法則は変えずに、非公式の特別大会という扱いにする方法もある。
 
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オリンピック延期と簡単に言うけれど

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 オリンピック延期と簡単に言うけれど。
 
 スポーツ選手にはピークの時期というものがある。
 
 国によって、また種目によって、代表選考が終わっているものと未だのものとがある。
 
 日本では、2020年3月下旬現在、陸上の短、中距離、競泳(飛込やシンクロを除く)、自転車、フェンシング等は大部分が代表は未定である。(競泳の瀬戸選手など一部決まっている選手もいる。)一方で、柔道、空手、卓球、セーリングなどは、ほとんど代表選手が決まっている。あとは陸上の長距離もほぼ決まっている。
 
 各国とも参加するからにはメダルをたくさん取りたい。そしてメダルをたくさん取るためには、“旬”を少し過ぎてしまった選手よりも“今が旬”、“今まさに絶好調”の選手を使いたい。国や種目によっては半年も経てば「大型新人」が登場する。そんな新人の存在を知ってしまった以上、せっかくの逸材は使いたいという気持ちが国民の中にも起こってくるだろう。「あの期待の新人を出場させればメダル間違いなしなのに、なんであの選手を出さないんですか?」「二年前の代表選考の結果にこだわる必要があるんですか?!」そういうことを言い出す人がたくさん出てくるだろう。中でも柔道のように、日本の国技でありメダルがたくさん期待される種目では、なおさらそういう声がたくさん上がるだろう。
 
 私たち大人にとっては一年や二年はあっという間だが、若者にとっての一年、二年は長い。もし延期したら、二年後に素知らぬ顔の新人が「大迫選手の分まで頑張りたい(例)」などと言っているだろう。
 
 一度決まったのに、代表内定を取り消されてしまう選手はあまりにかわいそうだ。嘘の合格証書をもらったようなものだ。
 
 そういうかわいそうな選手を生まない方法を考えたい。
 

【2020年】気象会社6社による桜の開花予想レース結果発表

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 今年も民間の気象会社6社による桜の開花予想レースを勝手に開催しました。3月14日に全国のトップを切って東京・靖国神社で桜の開花が気象庁から発表されましたので、答え合わせをしていきたいと思います。
 
 今年は2019-2020の冬が記録的な暖冬で充分な休眠打破が得られず、桜の開花もその分遅れるのではないかと見られていましたが、その後の2月、3月の気温が高かったため、全国的に桜の開花は早まると予想していた会社がほとんどでした。結果的に東京では3月14日という史上最も早い桜の開花となりました。
 
 この、例年より大幅に早かった桜の開花を見事に当てた会社はあったのでしょうか。
 
 参加社は一昨年、昨年と同様、次の6社です。
 
ウェザーマップ(東京)
・日本気象(大阪)
日本気象協会(東京)
・ライフビジネスウェザー(東京)
・島津ビジネスシステムズ(京都)
 
 今年は、予想の締切日を2月15日時点、2月29日時点、3月8日時点の3つとしました。例年は3月15日時点を最終予想日にしているのですが、今年は桜の開花予想日が3月15日頃と予想している会社が多かったため、その一週間前の3月8日を最終予想締切日としました。
 
 部門は全国で一番最初に桜が咲くのはどの都市かを当てる【全国部門】と、東京の桜の開花日はいつかを当てる【東京部門】の2部門です。
 優勝候補は一昨年に好成績を収めた日本気象、毎年好成績を残しているウェザーニューズやライフビジネスウェザーあたりでしょうか。それでは見ていきましょう。
 

全国部門

 まずは全国部門から。
 全国(沖縄・奄美を除く)で最も早く桜が開花する都市はどこかを当てます。下図に各社が予想した都市名が書かれています。括弧内の日付は開花予想日です。正解は東京(3/14)です。
 

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 例年、開花一番乗りを果たすことの多い福岡、高知、東京あたりの無難な予想から始まりました。今年は各社とも九州南部は休眠打破の遅れを取り戻せないと予想していたところが多く、結果としてその予想は当たっていたのですが、問題は四国や九州北部でした。3月に入る頃から四国や九州北部も当初予想より少し遅れるのではないかと見る会社も出てきて、段々と東京一本に絞っていく過程が見られます。ライフビジネスウェザーは最終的に東京一本に絞りましたが、ウェザーニューズは最後まで福岡を捨てきれませんでした。島津ビジネスシステムズは東京を当てていましたが開花日が違いすぎました。日本気象協会は3月に入ってから東京だと気づきましたが、名古屋・岐阜と余計なものを加えてしまったのが惜しかった。ウェザーマップが東京ではなくその隣の横浜にずっと拘っていたのは謎です。そんな中、2月15日時点という早い段階からずっと東京と予想していた会社が!日本気象です。ずっと東京一本で、他の都市に浮気もしていません。東京の平年の桜の開花日は3/26頃なので、2月半ばの時点で3/16という大きく乖離した予想を出すのはかなり勇気がいることなのですが、結果的にはこの開花日もほぼ当たりました。というわけで、全国部門の優勝は日本気象です。
 

東京部門

 つづいて東京部門。東京の桜の開花日はいつかを当てます。ですが今年は東京が全国トップでしたので、実質的には全国部門とほとんど同じです。
 下図の日付がそれぞれの会社の開花予想日、括弧内の数字は実際の開花日である3/14との日数差です。正解とのずれが少なかったところを赤字にしました。

 

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 実際に気象庁から発表された東京の桜の開花日は3/14でした。ウェザーマップがピタリ賞を出していますね。2月半ば時点で一番近い予想を出していたのは日本気象です。他の各社も最終的にはだいたい誤差2日以内に収めてきています。島津ビジネスシステムズは大きく外してしまっていますが、ここは人間ではなくAIが予想しているらしいので来年以降どう精度を上げていくのか注目です。
 東京部門の優勝はウェザーマップです。
 

総評

 今年は、東京で史上最も早く桜が開花し、各社とも当てるのが難しかったのではないかと思います。記録的暖冬で休眠打破が遅れた影響を重く見るか、それとも2月・3月の気温の高さの影響を重く見るか、が各社の頭の悩ませどころだったと思います。結果としてはやはり2月・3月の気温の高さの影響が大きく、東京では史上最速の桜の開花となりました。
 
 強いて総合優勝を上げるとすれば、2月半ばの時点で、都市と日付をほぼ正確に当てていた日本気象でしょう。
 
 
↓昨年、一昨年の様子はこちら。
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マイナンバーカード改名提案

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 マイナンバーカードが普及しない。
 
 せっかく国が作ったマイナンバーカードが全然普及していない。
 
 このカード、一つは名前が悪いのではないだろうか。
 
 国民の中で一番多い誤解は、マイナンバーとマイナンバーカードの混同である。大手新聞社でも「○○図書館、マイナンバーで本が借りられるように」などという記事を書いているところをよく見かける。
 

 

 もちろんこれは誤りで、全国どこの図書館でもマイナンバーで本は借りられない。マイナンバーカードで本を借りられるのである。本を借りる時にマイナンバーは使わないし、図書館職員に対して呈示もしない。
 
「大手新聞社はさすがにそこら辺のことは解っていて、単にマイナンバーカードのことを略してマイナンバーって言ってるだけなんじゃないですか?」
 
 だとしたら、私はそのような略し方には反対である。マイナンバーとマイナンバーカードは大きく意味が違うからである。マイナンバーで本を借りることができたら大問題である。
 
 「ウィキペディアをウィキって略すな!」はそこそこ広まったが、私は「マイナンバーカードをマイナンバーって略すな」を広めたい。
 
 そして、マイナンバーカードの性格から考えても、これは「マイナンバーのカード」ではない。たしかにカードの裏面にはマイナンバーが書かれているし、ICチップの中にもマイナンバーが書かれているが、それはこのカードの主たる利用目的ではない。
 
 マイナンバーカードの主たる利用目的はICチップの中の電子証明書を使った個人認証。この電子証明書を知らない国民も多い。
 
 「マイナンバー制度」と一口に言うが、主に「マイナンバー部分」と「マイキー部分」から成り立っている。そのことを示すためにちゃんとキャラクターも二頭に分かれている。
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 マイナンバー担当のマイナちゃんとマイキー担当のマイキーくん。
 
 「マイナンバー」という言葉はほとんどの国民が説明はできないまでも「聞いたことはある」と言うだろう。だが、「マイキー」という言葉は、ほとんどの国民が説明できないだけではなく聞いたことすらないと言うだろう。兎の知名度の高さに比べると犬のほうはほとんど知られていないと言っていい。
 
 マイナンバーカードの用途は、マイナンバーを使うこともあるが、大半はマイキー部分による公的個人認証である。だとすれば、「個人認証カード」、あるいは「電子証明カード」という名前にするのがよいのではないか。
 
 漢字では堅すぎる、せっかくだからもっと親しみやすい名前にしたい、というのであれば「マイキーカード」という名前ではどうか。
 
 このようにすれば、今は誰もわかっていない電子証明書やJPKIに注目が行くようになり、まだほとんどの国民が意識していないマイキーIDにも意識が行くようになるだろう。自分の好きなIDを設定する人も増えるかもしれない。
 
 そして、副次的効果として、マイナンバー(番号)とマイナンバーカード(プラスチック製の札)を混同する人も減ってくるだろう。
 
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“盥回し”と心理的距離感

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 人間とはつくづく勝手なものだと思った。
 
 数年前、救急車の「盥回し」が大きな社会的話題になったことがあった。救急搬送された病人がいくつもの病院で受け入れを断られて死亡するケースなどがメディアで報じられた。
 
 私はそのとき新聞に同調して「盥回し」を批判したが、世間の大多数の声は「そんな批判をしてはいけない」というものだった。
 
「あんまり批判したらお医者様が萎縮する」
「現場のお医者様、病院側だって一生懸命がんばってくださってるんだから」
 
 そういう声の大合唱だった。
 
 だが。今回のCOVID-19コロナウイルスの時は、そうした声をまったく聞かない。COVID-19の時も病院に行ったら検査を断られ、保健所に相談するように勧められ、保健所に相談したら病院に相談するよう勧められ、延々と盥回しにされたという話がある。
 
 だが今回は皆、盥回し批判に同調している。誰も「そんなに責めたら病院がかわいそう」「保健所の方たちも一生懸命やってるのに」とは言わない。
 
 なぜか。
 
 なぜこんなにも、救急車盥回しの時と今回のCOVID-19とで世間の反応は違うのか。
 
 それは、人々が両件から受け取る心理的な距離感の違いから来ているのだと思う。
 
 救急車の盥回しの時は、その救急車に乗っていた患者の病気が何であるにせよ、その患者個人のことである。処置が遅れたとしても、その患者個人が亡くなるだけである。それより「盥回しだ!」と言って病院や医者を責めすぎることで医者が腹を立てて「じゃあ、もう診てやんない」と言われることの方が、よっぽど困る。なぜなら自分は将来、救急車のお世話になるかもしれないのである。
 
 一方、COVID-19は違う。皆、自分が感染させられるかもしれないという不安と恐怖を肌身に感じている。感染しているかもしれない可能性のある人を検査せずに野放しにしておくのは、我が身にリスクが降りかかってくる。感染しているかもしれない人は病院でちゃんと引き取って検査してくれなきゃ困るのである。そして自分がお世話になるかもしれないのは将来ではなくて流行中の「今」なのである。だから「今」、対応してくれなきゃ困るのである。
 
 要は、自分がどちらに近いところにいるか、ということである。
 
 この「近さ」という距離は物理的な距離ではなく心理的な距離感である。
 
 我が身に身近に感じられた時には、途端に「お医者様が萎縮する」の大合唱は鳴りを潜める。
 
 数年前の救急車盥回し問題の時、「盥回しではありません。受入困難、受入不能なのです」と言っている人が随分たくさんいた。
 
 なぜ、今回はそれを言わないのだろう。
 
「そんなに批判したら厚労省の職員の皆様が萎縮する!」
「現場の厚労省の皆様だって一生懸命がんばってるんです!」
 
 そういう声はまったく聞かない。
 
 自分の身が助かるほうを擁護する。他人の身より自分の身。不安や恐怖が、我が身に切実に、リアルに、切迫して感じられる時は批判もする。
 
 自分との心理的距離感、の問題。
 
 人間とはなんと勝手なものなんだろう。
 
 
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